何よりのおすすめ『連隊の娘』
今回の選りすぐりの名演27作にはフローレスが出演する三作が含まれるという贅沢さであるが、そのうちのどれを優先すべきか、わたしがオペラの生き字引さまと尊敬してやまないkikukoさんのご意見を伺った。意外にも『連帯の娘』を注目している、フローレスもだが、ソプラノのナタリー・デセイが見逃せないとおっしゃるのに、いてもたってもいられず、いそいそと出かけた。
期待は裏切られず、フローレスは容姿も見とれるばかりの美男子ぶりだが、声量はまさに絶頂期ではないかと思われるほどのスゴさで、ベルカントのハイCへの高みが難なく発せられ、あまりの完璧さに、観客すべてのゴォ~ッツという歓声に自分も合唱したくなるほどの感動であった。デセイは美しさもだが、女優出身の演技力のすさまじさ、コミックオペラの本領を全身で表現、連隊兵の下着の洗濯の山を片っぱしからアイロン、見事な手さばきでたたみながらのアリアには、ユーモアと詠唱の美とが合致して、観る者を恍惚とまでさせる舞台効果に酔い、ああ、オペラって素晴らしいとため息がとまらなかった。
イタリア人のコミックオペラと言えば、ロッシーニだが、ドニゼッティにはアリアのすべてに何とも言えない、品格と優美さがある。
今から18年まえ、ドニゼッティの出身地、ベルガモの歌劇場で、わたしはこの『連帯の娘』を観たのだった。劇場は天井にフレスコ画があるようなこれぞイタリアという優雅さだったが、席がなんと前から三番目ということもあってか、男性歌手が長髪で髭つきの大男で、声はよかったが、容姿が不満、フローレスのこの役を観たかったとずっと思いつつの舞台だった。あのときはもしかすると言語もイタリア語だったのかもしれない。
今回のフランス語はまさに、フランス人のデセイならこその、独特の言語の醸し出す発声の雰囲気づくりがぴったりで、しかもセリフ入りの舞台演出が二幕後のややこしい筋書きをなめらかに解決していたし、侯爵夫人と公爵夫人の名演技で、それが一層に冴えていた。
おかげさまで名舞台を見逃さずにすみました、kikukoさん、大感謝です。
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