『魔笛』観劇
オペラ『魔笛』は過去に三回ぐらい観ている。今回日本人歌手のみのこの大作、このところ我が国の声楽レベルの高さには感動しきりなので、観てみたいような、でも三時間の長丁場に耐えられる体調でなければならないので、その確信がなければ、と、迷いつつ、最後の公演があと二回とせまったとき、偶然インターネットで、大野和士さんのオペラ玉手箱に行きついた。彼自らピアノの伴奏をし、『魔笛』の魅力を、熱く語る。出演の歌手たちも、大野さんの熱気が乗り移ったような見事な歌唱で、惹きつけられたまま、ベートーベンが「魔笛」という作品は現存するオペラの最高傑作だと褒めたたえたという事実が語られたとき、決心した。さあ、行こう、魔笛へ…
幸い、私の一番気に入っている席、張り出した二階の最突端、R4-11-1という席を購入できた。
幕が開いたままの舞台はモノトーンの影のような色で、舞台美術はそのままのカラーを維持したまま、変わらない。2018年と今回の演出担当のウイリアム・ケントリッジの演出ノートによれば、陰画を描くという創作方法で、映像投影形式を採用し、影と光の交錯から意味を読み取る効果を望んでいるというのである。
頻繁にあらわれる、幾何学的映像に戸惑うこともあったが、鮮やかなカラーは登場人物の衣裳に頼るというわけで、独特の華やかさも生まれた。
但し、夜の女王が、白いドレスというのが、どうしても違和感が残った。安井さんの歌唱はコロラトゥーラの最高を歌いこなすだけでもすごいのに、それが鬼気をおびるほどの迫力だったから、なおのこと、衣裳の白さが気になった。
あとザラストロの衣裳も太陽の世界の支配者というにしては、洋風の正装なので、部下との区別がつきにくく、おまけにバスバリトンの迫力がイマイチなのが、残念だった。
オケも、タクトが大野さんだったら、違っただろうな、と思うところもあったが、モーツアルトはやはり、スゴイ。少しも飽きさせず、メロディの転換に酔わせてくれる。
あのめっぽう明るいところが、苦手な一時期もあったのだが、今のように、現世が暗いことばかりだと、せめてオペラは明るいのがいい。しかも今回は舞台美術の暗さが、どこか毎日テレビに映し出される、爆撃あとの暗さを想わせて、最後のほうの「苦難の後には賢者の道が開かれる…」とかの意味合いの字幕の言葉が、胸にしっかり刻まれて、安堵が広がった。
パパゲーノ役のイケメンの近藤圭さん、いい声で有名アリアをうならせたし、パニーナのソプラノも独特の響きがあって、聴かせどころは全て満足した。
やはり観にきてよかった。しっかり、楽しめた三時間だった。
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