ハヤシライス再発見
かつてハヤシライスはわたしの最も得意料理のひとつであった。三十年ぐらいまえ、日本語教師をしていて外出する日が多かったころは、朝これを仕込んでおけば、帰宅してから、サラダを添えるぐらいで簡単なので、週一ぐらいは食卓に登場するメニューでもあった。
コツはルーをつくるとき、焦げる寸前くらいまで、小麦粉をバターでいためる見定めであり、そこに赤ワインと、トマトソースをブイヨンで薄めて煮込んだスープを少しずつ入れてハヤシの土台をつくり、あとは味見してウスターを加えたり、醤油をたしてみたり、塩コショー、時には砂糖をいれたりして、調える、ということで、まず失敗はなかった。
ところが、最近になって、このハヤシがあまり美味しく感じられなくなってしまったのだ。
なぜだかわからない、ともかくいろいろ加えて、頂点に達する自信がなえてしまっている、とでもいうのであろうか。
そんなとき、なにかの雑誌からコピーをしておいたハヤシライスの別レシピが見つかった。なぜなのだろう、こういうときがくるかも知れないと、探しておいたということなのだろうか。ちょっと面倒な手順ではあったが、「調理して煮込み、これをこしさえすれば、あとは簡単、ぜひおためしを」というような前書きもついていた。
確かにすぐに暗記できるほど簡単ではなく、レシピを見て、確認することが実に多い手順ではあった。
だが、仕上がりは、これぞハヤシの最高と言えるほど、ほっぺたが落ちるほどにおいしい夕食を食べられた幸せを味わった。
今そのレシピの詳細を、ここに述べたいのだが、実は、それがどこかに消えてしまって、見つからない。このごろ、いろいろなものが消えて困っているのだが、またそれが増えてしまった。
でも二回つくってみて、全く同じ味を完成してほぼ、手順は覚えているのでここに記すことにする。
玉ねぎの薄切りと人参のいちょう切りをバターできつね色になるくらいにいため、さらに、ニンニクのみじんを加え、香りがたったら、そこに赤ワインを半カップくらい加えて、さらに水分がなくなるまでいいため、小麦粉大さじ2,を加え、なおもいため、水1カップ、デミグラソース半カップ、スープキューブ1,塩小さじ1、コショーで味をしめ、トマト一個、皮むきタネとったものを切って加え、およそ10分ほど煮込む。それをこして、できた液体に、いためた牛肉、マッシュルーム、玉ねぎ薄切りなどを加え、5,6分煮込み、味見して出来上がり、というもの。
分量、塩加減は自分の舌で確認すること。
冷凍のグリンピースや、冷凍しておいた枝豆などの緑が散らばると、見栄えもよくなる。
ハヤシは英語でhash、ごった煮とか、煮なおすとかいう意味があるがまさに今度のレシピは、煮直すような行為を繰り返すという手順をしているわけで、これこそ、正にハヤシの本流と言えるのだろう。
デミグラソースは最近スーパーオーケイで、栗原はるみのパウダー版を見つけて、さすが、彼女と飛びついて買ったのだが、ためしてみたら、ハインツの方がおいしかった。
パウダーにするために、添加物が増えているのか、余分な行程ゆえに、味がイマイチとなったのかもしれない。ともかく便利がいいとは限らない、ことを近頃実感することが多くなっている。
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