メイ・サートンの小説『ミセス・スティーヴンズは人魚の歌を聞く』を読む
主人公は最愛の夫が亡くなってから、詩人になり、遅いデビューを果たした女性、成功した彼女に男女二人のインタビューアーが訪ねてくる。
記憶がよみがえり、夫を亡くした当時の、失意のあまり、入院していた時に彼女を再びよみがえらせた、ハロウェル博士とのエピソードは、胸を打つ。
「詩を目的にしたまえ、人間ではなく」と命じられる場面は忘れられない。
家に帰宅したとき、大量の手紙から一通を選びとって、たった一人、文通が続いていた級友からのもの、庭がナメクジで荒らされている、孫は白血病…会いたい、話がしたい、死んで会えなくなる前に…
誰も幸せなひとはいない、自分の現在は幸せなのだろうか、と問うところが印象的だった。
インタビューアーは孤独とさびしさの定義をしてほしいと、彼女に言う。「さびしさは自己の貧しさで、孤独は自己の豊かさよ」と言う答え。
サートンが「自己創造の天才」なのであって、絶えざる自己との闘いのあげくに開花する。
孤独を克服して生きる女は、死を超克して生きる女であるという、翻訳者の最後の言葉がこの物語をより豊かにしているように思った。
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