三十年以上のご縁
夫の歯の不調を聞きつけて、まさかと思っていた訪問診療が事実になった。
歯科医の訪問診療である。我が家は全員先生のお世話になっているが、我が家にまで来ていただけて診療していただくというのは想像していなかった。
11時すぎ、おおきな自家用車が駐車して、先生と大荷物の看護師さんが降り立たれて治療は始まった。
ことの発端は寡黙だった息子が、珍しく困っている実情を話して、先生がそれではと、お出かけになることになったという。
全く設備のない、個室に足の不自由な夫が椅子に座り、先生は立たれて、口内をのぞき、明かるさも十分とうなづかれて、入れ歯用の型取りからはじまり、一週間後の予約がきまり、まだ修復可能なことがわかったのだった
夫は先生のお顔を見ただけで、嬉しそうな笑顔となり、しかも見事な手裁きのおよそ三十分、先生はだれかの紹介というのではなく、当時、部下のひとに都内で技術的に優秀な歯医者を見つけてくるようにと命令での調査の結果だけて、ご縁が三十年以上も続き、今日となったのである。
先生も光栄だとおっしゃってくださったが、先日訪問歯科で、我が家に現れたひとは見るなり、もうやることなし、無理、と言う結果をつきつけて夫を落胆させた。
今回は奇跡としかいいようがない。先生は以前は訪問歯科もしていたことがあったのだけれど、暑い時に、患者さんはちっとも暑くないといって冷房のないところで、汗みどろになったこともある。ここは涼しくて助かるというお言葉をいただいた。
わたしはひとの入れ歯をのぞくのもいやで、まさかこのようなことが実現するとは、と思っていたが、本当にありがたいことであった。
夫も先生のご注意を守って、慎重に、食べることを心がけ、当分は普通食で大丈夫になったことを喜んでいる。
息子がこの訪問を可能にしてくれたのは、うれしい、意外な、そして有難い出来事であった。
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