メガネ騒動
久しぶりに読書をしていた。文庫本ではなく、単行本だったので、字も大きく,改行も多い、読みやすい本だったのだが、どういうわけか、二ページに一度ぐらい、字がぼやける。
これはただ事ではない。
夏前に眼科の定期検査を受けたときは、白内障の心配はまったくない、と言われたのだが、字がぼやけるのは白内障の特徴である。夏の暑さに弱いわたし、今年の暑さは湿度もひどく、耐えがたい日が続いた。身体の衰弱度が増しているのは自覚していたが、いよいよ来るときが来たのか?
ドキドキしながら眼科に行った。かれこれ三十年以上もお世話になっている医師の診断は?
症状を述べ、宣告を待つ覚悟で恐る恐る首を上げると、先生はいつもと変わらぬ声音で静かに言われた。ぼやけるのはレンズの問題でしょう。
えっつ?そういえば、読書用メガネだからと、安心しきって、レンズはもう数年以上変えていない。よかった!手術という文字を今の時期、すご~くコワがる単純細胞の、不安はあっけないほど瞬時に消え去った。
翌日、いつもの眼鏡店を目指す。そこで購入したメガネ、取り落としたせいでゆがんでしまったのをついでに直してもらうつもりでケースに入れ、遠近はほかの眼鏡店で新調した赤いメガネをかけ、読書用と、念のためパソコン用もケースに詰め、ぼやけ具合を証明するために単行本までも入れた重たいリュックをしょって、雪が谷に向かった。ほかの美容院でカットしたときに感じるやましさと似たような気分で、あのあまり愛想のよくない、それでいてレンズの調整が抜群に上手な店主と顔を合わせるバツの悪さを想像しつつ店に着いた。
ドアが閉まっており、張り紙がしてあった…当分休業します。
いつ出かけても客の少ないのが気がかりではあった。もしかして閉店するのかも…
さて、どうしよう?この店を見つけるまえに利用していたもう一軒の老舗に行ってみた。そこも張り紙がしてあって、休業日、木曜日、なんとツイていない日だ。これで今日の歩数は400歩ぐらい増えた。
それでもあきらめられなかった。あとは表通りのチェーン店「メガネスーパー」、ここを一度レンズ交換で利用したことがある。レンズ交換だけだから、少しでも安いところを、と思って、値段を確かめたら、思ったほど安くなかった。それでも頼むことにしたのは接客が確かだったからである。記憶のよみがえり方が遅くなったのは、あれから数年たっているからだ。店員は女性一人だけで、うっすらとだが、見覚えがあった。あのときのひとだ。
まず曲がってしまったメガネの調整は、細い金属がもしかすると折れてしまう懸念もある、それを承知で頼まれますか?と念をおされてから、十分ぐらい待たされたあと、汚れていたメガネはピカピカになって、ゆがみは見事に直っていた。現在読書用にしているメガネのフレームのほうがむしろ危ういというのが彼女の見立て、正しい。そのフレームは十数年まえ、アムステルダムで買ったもの、年数からいって、ゆがみを直してもらったほうが新しく、しっかりしているのは確か、結局それを使って読書用にすることが決まった。
単行本を持ってきたのは正解だった。そのページをめくりレンズを数種類以上、交換する作業が見事だった。ここにたどり着いてよかった、注文を終え、帰宅してから、「メガネスーパー」の評判をネットで調べた。
「安売り」と決別しても廃業しなかったのは接客が磨かれているからである、シニアの固定客の支持が多い云々、私は今日、それを実感できた。
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