変化する食事情
食いしん坊のわたしは、おいしいものは自分の料理と自信を持っていたし、樋口恵子さんが「老いの福袋」の中で主張されているような、料理が面倒になったら「調理定年」を、というような状況はまだ先だとたかをくくっていたのだが、このところ状況が変わってきた。偏食の夫と、偏食なしの息子と私の三人が美味しいと食べられるメニューを考えるのがしんどくなってきているのである。
この二、三日は涼しい日が続いているが、酷暑の日はもう何もするのもいや、叫びだしたくなるくらい億劫、それをじっとこらえて、一番手のかからない、目をつぶってもできるようなものをつくったのに、いつもの自分の味にならない、というような事件が起きてからは、生活に関する全自信を失いそうになっている。
ポークボールトマト煮は、豚ひきに、ミルクに浸したパン粉少々、玉子一つ、パプリカパウダー、塩コショウでよくこね、小ボールにまとめて、小麦粉をまぶし、オリーブオイルで焼く。そこまでをしておいて、あと付け合わせのマッシュポテト、コーンとグリーンピースの、バター炒めなど用意したところで、予約したマッサージに出かけた。息するのも苦しいくらい肩パンパン、それを30分ほぐしてもらい、ベーカリーに立ち寄り、大きめクロアッサンとゴボウサラダ買って帰宅。六時過ぎていたので、ポークボールにもう一度火を通して、ブイヨンとトマトペーストを混ぜて、その中で煮る。味見したら、何かが違う。スープに酸味が出ていてまろやかでない。いつもの私の味ではないのだ。そうか、ワインを入れればいいんだ、と赤ワインとちょっぴりシェリーまで加えた。それでも、よし、とうなずける味にならない。ワインはミートボールを焼いているときに加えるか、こねているときに加えるかした方がよかったか、または、すでに煮込んでからマッサージに行くべきだったか、とも思ったりしたが、すでに遅しである。
夫はおいしかったよ、と言ってくれたし、息子も少々多すぎるのでは、と思ったほどの残りをきれいに完食していたが、わたし自身は、以前の味と違ったような後味が、寂しく思われた。
デイサービスで夫の体重値が少し下降しかけているというので、高齢者の体重減少というのを調べてみたら、カロリー過剰や、偏食にこだわるより、ともかく何かで寝付いてしまうことが起きても、筋力や体力があれば、回復が早く、危ぶむことが少なくなるので、カロリーの高いもの、たとえば、ハンバーグとかアンドーナツとかを積極的に食べさせたほうがいい、という医師の談話を読んで、これだ、と思った。
ハンバーグは以前得意だったが、いまは苦手になってしまった。息子に冷凍食で、なにかいいもの探してくれない?と相談してみたら、その晩は雨で、もう十時を過ぎていたのに、パーカーを羽織ってさっと自転車に乗って30分ほどして帰り、トップバリューというシリーズのおかずセット付、ハンバーグを二種類買ってきてくれた。なんでも二つ駅の先のイーオンまで行ったという。その冷凍食はレンジ解凍も簡単で、見た目も美しく、夫は美味しいと喜んで食べたので、このところ重宝するようになった。
天ぷらやかき揚げ好きの夫向きに、東急ストアにあるチンだけでおいしく出来上がる天ぷらそばも助かっている。
週に二、三度、夫だけ簡単ごはんをして、わたしは自分の好物で何より得意だと思っている炊き込みご飯などを食べるのだが、この炊き込みも、以前よりおいしくなくなったような気がして、失意が大きい。
年下の友人に打ち明けたら、それは味覚の変化、あるいは、味覚の衰えがあらわれてきているのかもしれない、と言われて、つくづく84年の食歴も変わる年月の長さを、思ったのであった。
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気候の変動の激しいこの季節に毎日の食事を作るのは、体力的にも気持ち的にも大変な重圧とお察し致します。今迄慣れていたレシピも思い通りに仕上がらないこともあると存じます。でも、ご家族が美味しいとおっしゃって下さるのであれば、もっと自信をもってよろしいのでは?私も、思っていた味に仕上がらないことがありますが、それでも家族が「美味しいよ」と言ったくれたら、それでよしと思うことにしています。自分の味覚を信じてはおりますが、やはり衰えている部分はあります。この頃は、美味しいレトルトもありますので、ご利用をお勧めいたします。私は、パルシステムの冷凍を利用することも多々あります。買い物に行かなくてすむので重宝しております。ご無理をなさらないで下さいね。
投稿: aiai | 2022年7月18日 (月) 11時21分
ありがとうございまs、お励ましいただいて…
パルシステムは同年代の友人も利用しているひとがいますが、わたしはカタログを見て選ぶというのが、どうにもシンドイので、試みる気になりません。
冷凍は、夫が食べてさえくれれば、手が省けるので、このところ、頼ることが多いのですが、自分は食べる気がしません。冷凍を常温にもどすのも、微妙な温度差で、美味しくならないこともあるようで、わたし自身はどうも冷凍は苦手なのです。
気難しいバアサンだと、自分でも思います。
投稿: ばぁば | 2022年7月19日 (火) 14時03分