『時の面影』から『ホワイト・クロウ、伝説のダンサー』へ
映画通の知人がこぞって絶賛している『時の面影』が見たくて、Netflixに登録した。
「イギリス映画&テレビ番組」のかなり奥のほうで見つけたが、今は「Netflix独占配信」のトップに鎮座している。注目度が上がったに違いない。
発掘とか古墳とか、およそ興味の対象ではなかったストーリーだが、出だしからすぐに目が吸い寄せられた。主人公のバジル・ブラウンに、である。見えない宝が埋まっている場所にするどい嗅覚を持つ彼、見覚えのある顔、こんな脇役系の名優いたかしら?最後まで思い出せないまま、感情を巧みに表す目の表情に惹きつけられた。この人物の功績が認められたのはかなり時を経てからだという、発掘に学者が入り込んでくる、イギリスの階級制度があらわになる場面での、バジルの感情をコントロールした表情が素晴らしい。登場するすべてのひとが英国の階級制度やそれにまつわる問題点をいみじくも巧妙にあらわすキャスト編成も見事で、満足した。
執事のいる領主の屋敷だから、食事係もしっかりはしているのだろうが、夏に重苦しいシチューを供して、美しいヒロインを、胃の病に陥れたり、エピソードには現実性が加わって、宝がいつ掘り出されるかだけの、興味だけに引っ張られるわけではない巧みなショットに満ちあふれた名作なのである。
でもこの作品がこれほど、心に残るのはやはり、バジル・ブラウンを演じる俳優の演技力、最後のキャストの文字のトップ、えっつ、レイフ・ファインズだったの! 『イングリッシュ・ペイシェント』で登場した美男俳優。彼は悪役やら怪物やら、さまざまに変容して、『ホワイト・クロウ、伝説のダンサー』で頭髪のうすくなった今の彼が、バレエの教師役で登場し、しかもこの映画の監督であったことを知ったあの驚き。
この映画を途中からしか観ていないことを思い出して、急に観たくなった。幸いなことにYouTubeで無料配信していた。
伝説のダンサー・ルドルフ・ヌレエフがテーマの作品。恵まれぬ幼少期から、トップダンサーとなって、パリ公演に遠征したとき、そのロシアの寒村での貧しい暮らしから、ダンサーとしてどうあるべきかにもがき苦しむ自国での苦悩、そしてさらにバレエの完成度に挑戦する彼の今を巧みにフラッシュバックさせ、香気をただよわせるほどの表現の美を見せてくれる。最後の亡命が可能になるか否かのクライマックスの場面は息もつかせぬ興奮を呼ぶ。後援者の富豪令嬢のクララ・サンも美しく、オーディションの覇者、ヌレエフそっくりのダンサーも完璧である。 ヌレエフ ホワイト・クロウ
滅多とない上質映画の二本立てを観て、興奮さめやらぬ一日となった。
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鬱屈した日々の中で「時の面影」で心が満たされました。無言の行にも飽き飽きしていましたら、この映画のおかげで博識な方々と交流できて喜んでいます。ブラウンを演じている方が「イングリッシュ・ペイシェント」に出演されていると教えていただいて、20年以上前の初めての一人旅でアレッツォに行ったことを思い出し、胸がいっぱいです。ありがとうございました。その前に美術の旅で訪ねたときは、折あしくピエロ・デッラ・フランチェスカのフレスコ画は修復中でしたので、SFのストライキに悩まされながら、念願を果たしました。
フォントのことも、ご教示ありがとうございました。
投稿: kikuko | 2021年8月13日 (金) 21時36分
映画「ホワイト・クロウ」早速観ました。アマゾンプライムに入っていました。一気に観ました。ヌレエフ役のダンサーは、俳優並みの演技で初めてとは思えませんでした。ソ連時代のロシアも垣間見え、ああもうあの社会主義国は崩壊して今は無いのだな実感しました。レエフ・ファインズの監督もこの作品が3作目とか。堂々たるものですね。
投稿: aiai | 2021年8月14日 (土) 17時58分
kikukoさま
あなたとykさまとの、学識豊かなお話合いを、感じ入るばかりです。わたしは映画は役者と監督、その出来、不出来を論ずることに主たる興味があるので、今回のそちら側の展開にはあれよ、あれよでした。
フォントはお役にたってよかったです。無料ブログは自分で探るほかなく、どうしようもないときはniftyのまかせて365にTELして解決しています。
投稿: ばぁば | 2021年8月14日 (土) 21時14分