83歳になる直前に読んだ『831/4歳の素晴らしき日々」
まもなく83歳になるというある日、図書館でこの本を見つけた。『831/4歳の素晴らしき日々』、アムステルダムの老人ホームで暮らす男性の日記で、32万部も売れて、ドラマにもなったという本である。
オランダはブリッジ人口がおよそ11万人、老人ホームにもクラブがあるくらいだというのを知って、オランダ人だったらよかったとさえ思ったことがある。そのホームの全貌がわかるのなら、と読み始めたのだが、たんたんと描かれてある日常は必ずしも、恵まれたものではない。月曜はエンダイブのマッシュポテト,火曜はカリフラワーのホワイトソース、水曜はミートボール、木曜はインゲン、金曜は魚、土曜はスープとパン、日曜はローストビーフとメニューが決まっているのに、土曜に、インドネシアのチャーハン、ナシゴレンが供されて、嫌がる人が続出したという描写に驚いた。
食事がどんな状況なのかは大いに興味があったが、オランダの高齢者は外国の料理を喜ばない人が多いことがわかって、日本との違いを改めて自覚させられた。
日本では和食ばかりではなく、洋食と称して外国料理が供されることが当然となっているから、メニューのレパートリーが広いのはそれだけ、厨房の頭痛となるのではないかと、想像ができた。
その決まりきった食事の味が薄くてまずいのも入居者の悩み、個性的な入居者を好まず、ことあるごとに経営側と対立する著者の悩みなど、高齢となっての集団生活の大変さが、あますところなく綴られて、身につまされる。
それでも数少ない同好の士をさそってオムニド(年寄だがまだ死んでやしない)クラブを結成、楽しい企画をする。
しかし、健康を損なうメンバーが一人去り、二人去りと身辺がさみしくなる描写は日常の出来事として、たんたんと述べられれば、なおさら、その深刻さが浮き彫りになる。
何気なく述べられる「人間は生まれ、やがて死ぬ。その間は余暇だ」の言葉や、「人生はなるべく愉しく時間をつぶすこと以上のなにものでもない」の叙述に、わたしは旧約聖書の
『コヘレトの言葉』3章を思い出した。
「何事にも時がある。
天の下の出来事にはすべて定められた時がある。
生まれる時、死ぬ時、
植える時、植えたものを抜く時…
(ずっと時が示され)
愛する時、憎む時
戦いの時、平和の時…
人が労苦してみたところで、何になろう。
わたしは知った。
人間にとって最も幸福なのは、
喜び楽しんで一生をおくることだ、と。
人だれもが飲み食いし
その労苦によって満足するのは
神の賜物だ、と。」
今、全世界が同じようにコロナ禍という災厄に自由を奪われているときだからこそ、これらの言葉が胸にしみいる。
この本の著者ははからずも、このみ言葉の数々を実践しているのではないか、と感じたからである。
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不特定多数の方と接するのが非常に苦手なので、老人ホームはおろかデイサービスもご遠慮したいと思っています。病院だけは避けようがない場合もありえますので、いざとなったときの差額ベッドの費用は蓄えています。できれば長引かないようにと願っておりますが、かなうかどうか。
整形外科に入院したときも、お食事のまずさに閉口しました。外出許可が出ると、お惣菜を買ったり、外食したりしましたが、人生の最後をああいうお食事で終えたくないです。
オランダの方がナシゴレンがお嫌いとは意外です。アムステルダムにオペラを観にまいりましたときに、オランダ料理はあまりおいしくないと聞いておりましたので、インドネシア料理のお店に入りましたら、お味も接客も上々でした。たびたびオランダに行かれている方にその話をしましたら、それが大正解とおっしゃっていただいたのを思い出しました。インドネシアはかつてオランダの植民地だったからか、市内にたくさんインドネシア料理のお店があって、オランダの方で賑わっていました。
投稿: kikuko | 2021年2月24日 (水) 17時40分
高齢になってからの集団生活は、どんなに、恵まれた贅沢な環境でも、むずかしいことが沢山ありそうですね。
最後まで自分のつくった食べ物で終わりたい、と願っていますが、叶いますかどうですか…
ナシゴレンの話、高齢者は食に偏重な人が多いということに驚きました。
若い人のほうが柔軟性がありそうですね。
好奇心があるかどうか、という問題でもありそうです。
投稿: ばぁば | 2021年2月25日 (木) 11時23分