オペラ『仮面舞踏会』に思う、2
メトの『仮面舞踏会』はどちらかというとタイトルから想像していた豪華さはない舞台だった。衣裳もモダンで、舞台美術も前衛的、クラシカルではなかった。
歌手陣もオケも申し分なかったが、これほどの変化に富んだストーリーと、場面展開、きっと華やかな宮廷絵巻のような舞台があったはすだ、と、DVDを調べてみた。
もう一度アリアの数々を、耳にしたい、という思いも強かったからである。
1989年ザルツブルク音楽祭で初披露された『仮面舞踏会』、しかも開幕11日まえに、指揮をつとめるはずのカラヤンが急死して、サー・ゲオルグ・ショルティが引き継いだといういわくつきの作品。
キャストがすごい。グスターヴォ三世、プラシド・ドミンゴ、レナード伯爵、レオ・ヌッチ、アメーリアに、英国出身のソプラノ、ジョセフィーン・バーストゥ、王の小姓オスカル、スミ・ジョーという絢爛さ、魔女ウルリカは、アフリカ系の容姿、フローレンス・クイヴァーである。
オーケストラはウイーンフィル、演出は映画監督としても名高い、ジョン・シュレシンジャー、これ以上ない顔ぶれがそろっている。
舞台美術も衣裳も、言うことなしの、贅沢さと色彩と、豪華さのそろいぶみ。
とりわけドミンゴは立ち姿からして、彫の深い表情豊かな顔立ちが国王にふさわしく、四十代、張りもありのびやかなテノールの歌声は、まさに聴きごたえ十分であった。
レオー・ヌッチのバリトンはこのひとだけ知っていたなら、別に不足のない出来であるかもしれないが、あのホロヴォストロフスキーを観たあとだと、あの姿、プラチナブロンドの髪の下のりりしい顔立ち、胸の奥まで届く朗々としたバリトンはやはりあの人のほうが、と思ってしまう。アメーリアも、ラドヴァノフスキーの憂いのこもった哀しみをこれ以上ないほどにあふれさせる声量を、わたしは好む。
拍手が一段と多かったスミ・ジョー、カラヤンが見出したというこの東洋人のソプラノは、この舞台でも、きれいなメロディーのアリアをより美しく聴かせた。
そして魔女ウルリカはあの第二場を彼女の個性で聴衆の目を貼り付けにした、メトの歌手ステファニー・プライズに軍配は上げたくなる。
凄惨な状況を描きだす手腕にかけては定評のあるショルティだが、小さな音を大切にして、繊細な音作りを極めるマエストロ・ルイージを、わたしは好む。
オペラは豪華であればそれでいいというものではない、何を表現し、総合芸術を作り出すのか、それをまざまざと考えさせられた二作品の比較であった。
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