秀逸『メフィーストーフェレ』
演目に予備知識がなく、バッティストーニの指揮ぶりが見たくて、チケットを購入したこの演奏会形式オペラ『メフィーストーフェレ』、最初の二十分で頭をなぐられたような衝撃を受けた。
何という美しいメロディ、大人の合唱隊と子供の合唱隊が交互に歌うそれはまさに小天使たちの加わった天上からの歌声、天国へとみちびかれていく感動を味わう。
台本、作曲の両方を手がけたアッリーゴ・ボーイト、ヴェルディの台本を担当し、オペラの音楽を知り抜いていた人だからこそ、この傑作が生まれたのだろう。この「メフィーストーフェレ」のオペラがボローニャとスカラで成功を収めるまでは苦難があったようだが、これほどの傑作がこれまであまり取り上げられなかったのは、どうしてなのだろう。
ボーイトという名も知らなかった。
歌手たちのアリアも美しいが、心に残るのは合唱の役割の大きさと美しさである。オーケストラが舞台中央に坐し、そのうしろに合唱隊がそびえる、今回のこのステージオペラの形式はオーケストラと合唱を引き立てる効果が大きく、これこそ、この楽曲に最もふさわしい様式だったのではないかと思わせてくれる。そして舞台中央上部に設けられたスクリーンに繰り広げられる画像は底知れぬ不気味さを引き出す役目を果たしていたと思う。
バッティストーニの濃い顔立ちの容姿がこの作品の持つ魔的な雰囲気にぴったりで彼のとびはねるような激しい指揮ぶりがメロディーの盛り上がりを一段と高める効果を出していて、心を奪われた。
しかも各々の場ごとにエンディングへの盛り上がりが素晴らしく、バッティストーニが渾身の力を込めてタクトを振り上げるごとに、クレッシェンドは高みを増し、最後にすさまじい和音の爆発で終わりを遂げるのが、なんとも言えぬ恍惚感を味あわせてくれる。
すでに傑作とうたわれていたグノーの『ファウスト』より、ボーイトの『メフィストーフェレ』のほうがよりゲーテの原作に近いと賞されているが、今回歌手たちの歌唱力はすばらしかったものの、衣装に工夫がなかったせいか、登場人物像が際立っているとは言い難かった。舞台美術が限られているのだから、せめて衣装、メイクに工夫があってほしかったと思う。
近年、俄然注目されるようになったというこのオペラ、ついにメトロポリタン歌劇場で上演の予定があるという。楽しみなことである。
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ばあば様、メフィストフェーレ素晴らしかったとのこと、我が事のように嬉しいやら、悔しいやら(?)。旅行中でバッティストーニの指揮ぶりを見られず誠に残念でした。でも、ばあば様が堪能されたと知り、天上の歌声、合唱を想像しています。メトロポリタンでも上演されるとの情報、本当ですと嬉しい限りですね。本日帰京して一番のニュースです。
投稿: aiai | 2018年11月22日 (木) 18時02分
aiaiさま
演奏会形式のオペラは傑作が多いとおっしゃったのは、あなたではなかったでしょうか。
今回も然り、あなたのおかげとただただ感謝です。
予期していなかっただけに、感激もひとしお、なんでもCDはデル・モナコ版が素晴らしいとか、それにしてもずいぶん古いですよね。
それほど、近来の上演が少なかったのでしょう。
投稿: ばぁば | 2018年11月26日 (月) 22時33分