『蜜蜂と遠雷』読後感 1.
自分からは手にすることをしなかった本である。「読み始めたらやめられなくなるほどの本だから…」と貸してくれた若い友人、ジュン子さんに、感謝をささげる。彼女は類いまれな本を選ぶ目をもっていて、これまでもどれほど心の栄養をもらったかしれない。
作者恩田陸という名は知っていた。ミステリーの若手女流作家程度の知識でしかない。このひとがクラシックのピアノミュージックにこれほどの造詣があるとは、まさに舌を巻くほどの、描写の連続である。
日本の地方都市で開かれたピアノコンクールが舞台。四人の主要登場人物がどのように第一次、二次、三次、本選へと挑戦していくかが、克明に描かれる。生まれながらの天才としかいいようのない少年、ジュリアードの優等生で、優勝候補と期待されている、日系の容姿も端麗な青年、小さいときから才能を発揮し、将来を嘱望されながら、挫折し、復帰を志す女性、そして表現力と感性には恵まれながら、音楽の道を断念し、就職したが、このコンクールにもう一度挑戦しようとしている成人男性、この四人、それぞれの視点でそれぞれの選曲がどのように演奏されたが、まるでこの目で見、聴いているかのように描写される。
音楽を言葉にすることがどれほどむずかしいかは想像に絶するのに、著者はいとも軽やかに、豊かに、しかも短く、即興的に感性あふれる表現でやってのけている。
わたしには少々苦手だった、プロコフィエフとかバルトークとかの音楽を、ぜひ聴いてみたいと思わせるほどの、表現力なのである。
いや、まったくスゴイと思いながら、この本、507ページを、上毛高原の宿で、一日で読んでしまった。(続く)
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