久方ぶりの講師体験 3
今回この仕事に私を推薦してくれたのは、同級生のSさんである。現在トップ同時通訳者の最高齢のひとりだと思うが、彼女はこれまでも、何度となく翻訳関係や、日本語教師の仕事を紹介してくれた。私の娘が夫を亡くし、三歳と一歳の孫のサポートを手伝うことになったときも、“あなたはこういうときこそ、外に出る口実をもっていたほうがいい”と言ってくれて、オーストラリア人の会社重役に日本語をおしえる仕事の話をもってきてくれた。
その彼女と数年ぶりに会うことになって、自由が丘のカフェで待ちあわせたとき、彼女は相変わらずのすらりとした足にヒールの靴をはき、スマホを片手に、グーグルに案内してもらったわ、と颯爽とあらわれた。一週間後ILOの仕事に出かけるのだという。
私が、授業見学三回の話をして、ああいう優秀なひとたちに、敬語概論なんか必要なのか、幼稚すぎるのではないか、と問いかけると、「そんなことはない、実地で感じるけれど、いまの若いひとたちには絶対に必要だから、自信をもってなさい。私たちは安心して敬語の多い通訳を任せられる最後の世代とよくいわれるのよ」と言う言葉をもらった。
いろいろな日本語関係、敬語本を読んで改めて悟った。確かに、家庭で両親の電話のやりとりを身近で聴いていた私たちの世代はまるでスピードラーニングみたいに、自然と日常の敬語を耳に入れていたわけで、なんの抵抗もなく、尊敬語も謙譲語も口に出てくる最後の世代なのかもしれない、と。
彼女がまだ仕事をしている、という、写真入りの年賀状を見る度に、もう引退の年齢なのでは、と思ったりしたけれど、今回でわかった。彼女は正しく「余人をもって代え難し」の逸材なのである。(続く)
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