久方ぶりの講師体験 4
講義の日の十日前、風邪をひいてしまった。鼻かぜが三日も続き、薬を一日に九錠も服用することとなる。胃まで傷めてしまうと困るので胃薬も併用するから、まさに薬漬け。
ようやくおさまったかと思ったら、今度は咳がでてきて、更に薬攻めの日が四日も続く。
夫にはずいぶん助けてもらった。洗い物はすべて引き受けてくれ、料理も何度かまかせることになってしまう。こんな状況でうまくいくかしら、としょげ込むわたしを、絶対うまくやれるよ、オレが保証する、など励ましてもらった。
自室に閉じこもって、声を出して講義の予行演習をしてみたら、思いのほか、よどみなく言葉がでてきて、時間配分の見当もついたので、それは安堵したのだが、練習問題の体裁をよくしようと、テキストに添付することにして、自分でワードにうちこんだら、それが、かなり疲れる作業で、肩がパンパン、マッサージにも通うことになった。
ともかく、この年齢で報酬が支払われる仕事をするのは健康管理の気配りも加わり、途中で投げ出す迷惑だけは避けなければならないので、本当に大変とつくづく思った。
さて、当日、現役で仕事をしているひとたちが受講者なので、夜7時からの二時間授業である。
8時ごろはいつも居眠りをしている時間だから、大丈夫か、なども心配だったが、風邪も全快、目はぱっちりして度胸も出てきた。
受講者は思いのほか多くて八名、みな目をキラキラさせて、練習問題はほぼ満点、敬語の誤りの実例や、英語と日本語との敬意表現の違いなど、討論形式にしてみたら、いろいろな意見や質問がとびだし、テーブルは活気づいた。笑い声も何度かひろがり、教務のひとまで見学に入ってきた。
授業内容は二時間でぴたりとおさまったので、やれやれだったが、受講者たちの関心の高さは驚くばかりだった。
あとまで残って質問をするひともいたりして、十年ぶりの講義が不安でならなかった部分はまずは、杞憂に終わり、疲れを忘れて足取りも軽やかに帰途につくことができた。(了)
最近のコメント