ある終わり
車を手放す日が近づいている。と、いうことは夫が免許を返上するときでもある。
およそ六十年間、無事故無違反で家族のために運転を続けてくれた。
とりわけ、四年間のアメリカ生活、今から四十年まえ、まだ日本にマクドナルドもない頃、四十州以上をも、行く先々でレンタカーを走らせて仕事をこなした。
仕事ばかりでなく、休日には、私たち親子三人を乗せて、ドライブに連れていってくれた。
最初に出かけたロングドライブ、私のたっての希望で、サウスダコタのラシュモアパークに出かけたときのことは、今でも鮮明に記憶の中にある。ヒッチコックの『北北西に進路をとれ』の舞台となったラシュモア、四代大統領の顔が岸壁に刻まれている、いかにもアメリカらしい雄大な眺めの場所だ。
わたしの運転歴はアメリカだけにとどまったので、帰国してからも、夫の家族サービスは続いた。
娘がシングルマザーとなってからは、父親がわりの役を果たした。休日は二人の孫を乗せて保育園の送り迎え、公園通いなど、夫の出番は絶えることがなかった。
先日、マイカーを使う墓参りの最後となる日、瑞泉寺に出かけた。駐車場から墓地までの急な坂道、昨年末足を傷めた直後の墓参のときは、杖をついてそろそろと上ったわたしだったが、今回は先に立ってスタスタと上る。夫は杖をつきながら、ゆっくりと・・・桶やひしゃく、小箒、塵取り、たわしを持つのもわたし、墓は苔むして黒ずんでいた。その苔を二人でこすり取るのだが、夫の手に力が入り切れていない。年齢差が出ていた。
運転は安定している。彼はかなり短気なのだが、運転に関してはそれがあらわれない。精神の制御が巧みなのだろう。
これまでの感謝をあらわしたい、と思い、表彰状と書いた色紙をつくり、娘一家とわたしで寄せ書きをすることにした。言葉にしてそれを残すことが、何よりのプレゼントになることを期待して。
« わたし好みのビール | トップページ | 平塚らいてうを知りたくて »
ご主人羨ましいですね。奥様に素直に感謝されて。。。僕は、40年以上ワイフ優先の盆には3箇所の墓参り、ヘアーサロン、お茶兎に角、運転手 可なりなストレス。
免許返上したいにも生活が出来なくなる。。。頭が痛い。。。
投稿: Massy | 2016年7月25日 (月) 07時40分
ご主人、無事故無違反で60年とのこと立派です。家族に感謝されてさぞ嬉しいことと存じます。車の無い生活になりスローな毎日をゆっくりお過ごしください。
投稿: aiai | 2016年7月25日 (月) 08時39分
免許返上をいつするか? これは私の周りの人達の話題でもあります。
我が家の場合はもう少しだけ先かな? と、思うのですが、、、
齢を重ねるほどに車の有り難さから離れられない気持ちもありますね。
その後の暮らしをどうするか? でしょうね。
ご主人様の長年のサービスに大きな感謝ですね。
投稿: tomoko | 2016年7月25日 (月) 09時13分
Massyさま
夫も今回決意したのは、お仲間にやめるひとがふえたこともあるようですし、
娘が強く、もうやめてくれと主張したせいでもあります。
奥さまに対してそれほどのことがおできになるのはMassyさまだからこそでしょう。
でも介護保険はかなり有効に活用できるようですよ。
夫に迎えにきてくれる筋トレ教室の参加をすすめましたが、ウンと言いません。
昔野球部で鍛えた誇りがゆるさないようです。
投稿: ばぁば | 2016年7月25日 (月) 20時22分
aiaiさま
マイカーを持つ費用を、タクシー代に替え、買い物も重いものは月々配達してもらうよう、生活を変えていかなければ、と思っています。
夫は電動三輪車を買う、とか言っていますが、街でその乗り物、あまり見かけないんですよね。
投稿: ばぁば | 2016年7月25日 (月) 20時25分
tomokoさま
別荘がある方とか小さいお孫さんのお世話がある方、とかでなければ、東京のように、
交通が発達しているところは、マイカーなしでも不自由でないかもしれません。
タクシーも、いつでも電話してくれ、など、名刺をくれるひともいます。
足さえ、大丈夫であれば、なんとかなりそうな気がします。
投稿: ばぁば | 2016年7月25日 (月) 20時31分
表彰状
何と良いお話でしょう
こちらの心も温かくなってきました
田舎住まいしていると車は切り離せない必需品
バスの本数も少なく・・・・・
でもいつまで乗れるかな
しばらくは大丈夫だと信じて今日もハンドル
握ってスーパーまでお買い物です
投稿: おばさん | 2016年7月25日 (月) 20時47分
おばさんさま
ご自身も運転されるのですね。
ご立派です。
アメリカは車がなくては、そして運転できなくては暮らしていけないところです。
85歳の従姉妹はシアトルに住んでいますが、まだ運転しています。
東京のように渋滞に悩まされるところでなければ、運転歴を長くする可能性はずっと大きいでしょう。
投稿: ばぁば | 2016年7月25日 (月) 20時56分
節目って、自ずと来ますよね。
竹のように、節目節目をたどって生きていくイメージでしょうか?
こちらは、田舎ですし、夫の実家は更に田舎ですし、夫はなかなか返上しない予感がします。
今は67歳ですが、くちこは既に、夫の運転に老いを感じていますが、本人は自信満々です。。。
くちこは、二年前に今の車を購入する時に、この車を最後にしようと思いましたよ。
投稿: くちかずこ | 2016年7月28日 (木) 18時42分
くちこさん
65歳はお若い!
免許返上を考え始めるのは10年先だと思いますよ。
投稿: ばぁば | 2016年7月28日 (木) 19時21分
JRの中で読みました。車の思い出の中にびっしりと詰まった家族の人生の重さに胸が熱くなりました。同じくらいの人生を送った者としての共感もあります。
手 を離れるものがあれば、キーボーのように舞い込むものもあります。何かを求めるという積極的な行動のたまものですね。
いろいろ考えさせられました。
投稿: ちゃぐまま | 2016年7月30日 (土) 17時29分
ちゃぐままさま
車の無くなる前夜、ドライブのときのそれぞれの思い出深いエピソード満載の寄せ書きを感謝の言葉をそえて書き、真ん中に絵の得意な孫娘がじぃじの運転する車にチャイが乗っている絵を描いて、皆で贈りましたら、夫は涙を流して感激しておりました。
一つの時代が終わったという感じです。
投稿: ばぁば | 2016年8月 1日 (月) 22時58分