読み始めたら、やめられないヘニング・マンケル本 2.
スウェーデンというと、まずセンスあふれるカラフルな家具や雑貨の街、首都ストックホルムが浮かび、名匠イングール・ベルイマンの映画の画面が去来する。ベルイマンの映画はなにか暗い影のようなものが漂ったりするけれど、色彩はあふれていた。
ところがマンケルの小説の舞台は南部の過疎地、イースタ近辺、冬は凍るように寒く、色彩がまったく浮かびあがることもない、モノクロームの世界である。十月から三月ぐらいまで、ほとんど太陽が出ない日々が続くそうで、それが暮らす人たちの心にどれほどの影響を与えるか、風景描写がすぐれていればいるほど、深々と迫ってくる。
『目くらましの道』の中に、「スウェーデンはひどい貧乏のなかから立ち上がった国だった。大部分は自力で、また幸運な状況も手伝って豊かな国になったのだ・・・・そして輝かしい時代が過ぎ去ったようにみえるいま、社会福祉があらゆる方面から削られ、押し潰されそうになっている時代・・・・隠れていたほうの貧困、家族の悲惨さが表面に出てきた・・・」
というモノローグがあるが、IKEAのインテリアから想像もしなかった、この国の現状がくっきりと、まざまざとマンケルの筆であらわにされる。
かつてイタリア、ボローニャに二週間滞在したとき、ホームステイしたアパートの四階は未亡人の女性一人の居室のほかに四室、客用の部屋があって、わたし以外にスウェーデン人の学生が、三人もステイしていた。彼等は常にはしゃいでいるわりには、あまりフレンドリーな態度ではなく、好感を持てなかったのだが、スウェーデンみたいないい国(そのときはそう思っていたのだ)に住んでいて、どうしてイタリアに来ているの?と訊いたら、きゅうに表情を厳しくして応えたのには驚いた。「あんな国なんて、帰りたくもない」
もしかしたら、彼らは南部や北部の過疎地の出身だったのかも知れない、と今になって思い当たる。
ヴァラァンダーの父親は画家である。彼の生涯の夢はイタリアに行くことで、それを息子はなんとかしてかなえようと努力する。
太陽の国、イタリア、明るい輝くような陽射しの中で花々は歓喜の色で咲き誇り、トリたちは毎朝、歌うように啼く。その国で、たとえ限りある時間であっても、太陽をあびることで、幸福感を味わえるのではないかと、夢見る気持ちが切々とつたわってくるのである。
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