ロザムンド・ピルチャー『帰郷』読破 1
およそ1000ページ以上もの、上中下巻の大長編、ピルチャー自身の自伝と称せられたりもしているが、読み終わってやはりこれは自己の経験をもとにした小説であると思った。
第二次大戦直前の英国コーンウォール、極東に暮らす家族と離れ、ひとり寄宿学校に入学するジュディス、富裕な家庭の同級生ラヴデーと親しくなり、やがては彼女の屋敷ナンチェローに引き取られ、14歳の少女時代から24歳の成熟した女性になるまでの十年間を描く物語。
会話の少ない、ぎっしり字のつまった地の文の多い五十ページくらいまでで、あやうく挫折しそうになったが、そこは当代屈指のストーリーテラーのピルチャー、寄宿学校の細やかな描写とラヴデーとの出会いのころから、ぐいぐい読ませて、戦時下のイギリスの家庭生活、戦争に巻き込まれていく青年との恋愛、わずかな安らぎの時間に癒される自然とのかかわりに引き込まれていった。
とりわけラヴデーの大伯母、ラヴィニアは年かっこうがわたしくらいなので、考え方に共感をおぼえることも多かった。たとえば、「年を取ってからというもの・・・手の下しようもないことについて思いわずらっても始まらないと考えるようになっていた・・・天気のこと、ドイツにおける好ましくない情勢も、心配しても始まらない問題のうちに数えられるだろう。新聞は一応、読むが、一度目を通した後はきれいさっぱり忘れることにしていた。
新種のバラを注文し、フジウツギを選定し、図書館から借りた本を読み、友だちからの手紙を読んだり、やりかけのタペストリーをふたたび手に取ったり・・・」
そう、いつ襲ってくるかもしれない体調不全が鳴りを潜めている間、老人のわずかな安らぎのときは、どこの国でも共通している。
この時代のイギリス、中流以上の家庭には料理をする家政婦が住み込んでいた。ラヴィニアは四十年も一緒に暮らしていた家政婦の老いが気になっている。
雇人がいる幸せよりも、玉子も満足にゆでられない当主の彼女としての目下の気がかりは実に切実に、具体的に描かれている。
彼女の愛読書トロロープの『ボーチェスター・タワーズ』「読み返すのはこれで六回目くらいだろう。でもトロロープはいつも心を慰めてくれる…誰かに優しく手をとられて、もっと生きやすかった過去へと誘われているような心持になる」
この本を読んでみたい、好奇心がモクモク湧いてきて、目下ネットで調べ、英文学の教授をしていた友人にも問いあわせ、調査中である。(続く)
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