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2015年2月26日 (木)

アンデルシェフスキの音色

一日に二つの異なる外出をするのがつらいと感じるこの頃なのに、きのうはそれを、むしろ楽しんでしてしまった。
午前中に10時から始まる一時間のユニオンチャーチでのバイブルクラス、日本人三人、外国人四人がアメリカ人の副牧師の指導で、聖書の使徒言行録について語り合う。
私以外の日本人女性二名は英語の会話力抜群で、むずかしい聖書の語彙を取り入れながら心の内を難なく語る。聴きとるのがやっとというときもあったが、より困難なことに挑戦する意気をやしなうことができた。77歳という年齢で、まだ学ぶことの励みと楽しさを感じることができるのは幸いである。

夕方から二度目の外出、オペラシティコンサートホールでのピョートル・アンデルシェフスキのピアノリサイタルへ。
聴くに値する演奏家を知る、スゴ耳の持ち主、Y子さんがT子さんと共にこのコンサートに行くと知って、それまで注目していなかったこのソリストを聴いてみようと、急きょ、チケット購入したのだった。席は前から7番目の右端だったが、表情がよく見え、音の響きも過不足なく聴き取ることができた。
バッハのフランス風序曲とイギリス組曲、自分でかつて弾いたときは、あまり特徴のないどちらかというと退屈な曲集という記憶しかないのだが、この夜の演奏は表情豊かでくっきりとしていて、惹きつけられた。Photo


アンデルシェフスキ、ポーランドのピアニスト、コンクール優勝とかの経歴がないのに、彗星のごとくあらわれた注目のひと、YouTubeで調べたとき、演奏中の指の大写しが見られた。手の甲の部分より長く感じられるほどのめぐまれた形のよい指、そのタッチは鍵盤にやさしく、ときに余韻を楽しむかのように、その指を押さえたまま横にずらすようにしていたりする。一音一音が十二分に鳴っていると感じさせられるのはそのせいだろうか。
グールドを聴いたときよりも、きょうのバッハを好もしく思った。

ああ、そしてシューマンの幻想曲、アンスネスのCDで聴きなれた曲のはずなのに、激しさを含んだ二曲目がなり始めたとき、涙がでそうになるほどの、感動がこみあげてきた。次の音を完璧に鳴らすためにその前の音がある、と言うように鳴り響く音の集まりはこの夜のホールのスタンウエイをこの上なく美しく響かせていた。
フォルテシモが沢山あるのに、弾きまくっているという感じがしない、説得力がそこにあった。
弾き終えたときの場内の一瞬の静寂には、まさしく感動しつくしたひとびとの沈黙。それなのに、日本人はブラボーも叫ばなければ、スタンディングオベーションもせず、両手を高くあげて拍手するだけ、ブラボーと叫んで立ち上がる勇気のない、自分がもどかしく、この興奮をもてあましながら、Y子さんとT子さんの紅潮した顔に出逢って、素晴らしかったわねとうなずきあうことで、まぎらわした。

帰宅してもう一度YouTubeのアンデルシェフスキ、シューマンを語る、を見る。
ポーランド語で語るインタビューの英語の字幕を読みとるのがむずかしい。二度つづけて見る。
饒舌に語る彼、シューマンは詩的な表現の破片をばらまき、それを演奏者にまとめさせようとする。それは暗さも明るさも含んでいるが、総体的には、夜でもなく、日暮でもなく、明け方をあらわすものだ。自分はときとして狂気の片りんを見出すことさえある。
ロベルト・ヴァルサーという精神を病み、二十年も病院で療養していた作家の詩を、アンデルシェフスキはシューマンを弾くようになって、初めて理解できたと、語った。
それほどまでにシューマンを理解していた、ということだ。

日本でのインタビューでも語っている。自分はもっと軽く、器用に弾きこなせればどれほど楽だろう、と思うことがある。でもコンサートの曲目は自分で選び、納得するまで曲を理解しないではいられない。しかしそれが自分の財産でもあると思うようになった、と。

感動とはどのように生まれるのだろう。演奏される曲が完全に演奏者に理解されていて、その技術も完璧であるとき、それは相乗効果となって、聴くものの耳に伝わってくる。ただ、曲想が美しいという単純な要素ではなく、そこに多くの作曲者の心の変容があらわれていればいるほど、そこからの人生の声というものを感じとれるのかもしれない。
八人の子の父であり、名ピアニストの夫でもあり、言語に絶する病をかかえて、精神も病んでいったシューマンにいま、心惹かれる。
そしてこの夜のアンデルシェフスキの演奏はそれを十二分に伝えてくれたと確信できる。


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