『フロスト警部』賛
AXNミステリーには名警部シリーズが多いが、中でも『フロスト警部』シリーズは並外れた傑作ぞろいである。
アガサ・クリスティー作品をほとんど見尽くして、上流階級の腐敗と、遺産狙いのストーリばかりにいささかうんざりしたあと、一時は『モース警部』シリーズに集中していたのだが、これも、滅多に笑わぬ憂鬱人間モースに飽きがきて、なにか面白いものはないかと探してようやく遭遇したのが、このシリーズ。
英国アカデミー賞はじめ、英国刑事ドラマ賞など名だたる賞を総なめにするほどの出来栄えと人気とは知らずに見始め、あまりの面白さにすぐ虜になった。そのため最初の数編を見逃しているのだが、目下19話、35話までオンエアーというから、楽しみはまだ終わらない。
原作も超人気のミステリーらしいが、作者R.D.ウイングフィールドは放送作家出身というだけあって、ただの小説のドラマ化とは異なり、ストーリーの展開のよさが際立っている。
フロスト警部を演じるのはディヴィッド・ジェイソン、どちらかというと小柄の目玉のぐりぐりした中年男、美男でもなく、カリスマ性にも乏しいのに、このひとがスゴイ。眼力の迫力、せりふ回し、声音がたまらない。その口跡はシェクスピア劇の主役にも匹敵するほど、英語のくっきりした発音が冴え、容疑者につめよるときは観るものの胸をもかき鳴らす。
ジェイソンはコメディアン出身のせいか、そのぐりぐりの目の表情がときにはユーモラスに、ときには哀愁を帯び、その場の感情をあふれるほどに表してくれる。
舞台は架空の町デントン、クリスティ作品とは全く異なる英国の庶民の暮らしがあますところなく繰り広げられる。フロスト警部は仕事ひとすじのひとだが、失くしものが多く、遅刻も多く、上司とは衝突が絶えない。それでも本能的な直感からくる正義を貫く、統率力は抜群で、捜査の指揮をとる場面がいつも出てくるが、部下の信頼の厚さはこの上ないのである。社会のはみだしものや、不遇の境遇にあるものには常に優しい。
第9話にはダウン症の青年が登場する。その青年が容疑者のひとりにされたときに身近なひとたちが発するせりふはあまりに蔑視をあらわすもので、ドキリとしたが、それがあるゆえに、このドラマの迫真力が増したと言えるし、この青年の演技がそれは素晴らしく、胸を打つ結末が用意されており、涙があふれ出るほどであった。
フロスト警部の本名はジャック・フロスト、実は英語で冬の悪天候をあらわす擬人化した名称。
ディヴィッド・ジェイソンは2005年、エリザベス女王からサーの称号を受けている。
、
« バザーのために | トップページ | CWAJ九州窯元をめぐる旅 »
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 「カムカム…」終わる(2022.04.08)
- 「カムカムエヴリバディ」から始まる毎日(2021.12.27)
- ネットフリックス、わたしの今、イチオシ、イッキ観の作品(2021.09.02)
- 『時の面影』から『ホワイト・クロウ、伝説のダンサー』へ(2021.08.11)
- ソーイングビー(3)決勝戦1(2021.07.09)
我が家のワイフもミステリイーファン 中でもフロストこれが終わらないとお風呂に入らない。と言うことは僕が入れない。掃除が僕の仕事...
それで、寝るのが遅くなる...
投稿: massy | 2014年11月12日 (水) 08時14分
massyさま
そうなんです、フロストは見始めると、画面にくぎ付けになります。
コメントから、いかに愛妻家でいらっしゃるか、伝わってきます。
お二人でご覧になるなんてお幸せです。
わたしはフロストの面白さを語る相手がいません。
投稿: cannella | 2014年11月16日 (日) 21時30分