ハリール・ジブラーンの詩
ジブラーンはレバノンの名門の家庭に生まれ、カトリックの幼児洗礼を受けたが、のちに彼の考え方が反骨的すぎるために破門され、祖国からも追放される。彼の作品には宗教的、哲学的な香気が高く、しかも祖国を愛しながら欧米に暮らしたので、中近東と西洋双方のよいものが微妙に混じりあっている、と神谷さんは解説している。
詩集『予言者』がひとたび世に出ると、世界的ともいえる範囲で人々の心をとらえ、「ジブラーニズム」という言葉さえ生まれた。だが、生まれつき身体がよわく、「強い精神が弱い肉体に住むのはたいへんなことだ」と自ら述べているが、彼の一生は痛苦にみち、わずか四十八歳でこの世を去っている。
三十代でこの世を去ったシューベルトが短い人生に凝縮したような薫り高い、美しいメロディーを残したように、ジブラーンもまた、生き急ぎながら言葉で人生のメロディーを奏でつくしたのだ、とわたしには思われる。
『予言者』では主人公アル=ムスターファーがオルファリーズという町を去り、故郷に帰ることになったとき町の人々から知恵をさずけてくれと頼まれ、こたえる言葉が述べられている。そこにはひとの誕生から死までさまざまなテーマがくりひろげられる。
詩集を読み進むうちに、まるで突然霧が晴れたような、すさまじい覚醒を自覚した。その部分を抜粋して記そうと思う。
結婚について
結婚についてお話しをどうぞ、とアルミトラが言うと彼は答えて言った。
あなたがたは共に生まれ、永久に共にある。
・・・・・・・・・
そう、神の沈黙の記憶の中でともにあるのだ。
でも共にありながら、互いに隙間をおき、
二人のあいだに天の風を踊らせておきなさい。
・・・・・・・・・
自分の心を(相手に)与えなさい。
しかし互いにそれを自分のものにしてはいけない。
なぜなら心をつつみこめるのは生命の手だけだから。
子どもについて
赤ん坊を抱いたひとりの女が言った。
どうぞ子どもたちの話をしてください。
それで彼は言った。
あなたがたの子どもたちは
あなたがたのものではない。
・・・・・・・
彼らはあなた方を通して生まれてくるけれども
あなたがたから生じたものではない。
彼らはあなたがたと共にあるけれども
あなたがたの所有物ではない。
あなたがたは彼らに愛情を与えるが
あなたがたの考えを与えることはできない。
なぜなら彼らは自分自身の考えを持っているから。
・・・・・・・
あなたがたは弓のようなもの、
その弓からあなたがたの子どもたちは
生きた矢のように射られて、前へ放たれる。
苦しみについて
苦しみについてお話ください、とある女が言った。
彼は答えた。
あなたの苦しみはあなたの心の中の
英知をとじこめている外皮を破るもの。
果物の核が割れると中身が陽を浴びるように
あなたも苦しみを知らなくてはならない。
・・・・・・・
あなたの苦しみの多くは自ら選んだもの
あなたの内なる医師が
病める自己を癒そうとしてのませる苦い薬。
(続く)
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