リヨン歌劇場『ホフマン物語』を観る
数あるオペラ作品の中で一番好きな『ホフマン物語』、観るのは今回で六度目、パルマ、レッジオ、ミラノ、スカラ、日本で三度、そしてこのリヨン歌劇場引っ越し公演、よくぞ、総動員引き連れて来てくださいました、と大野さんにお礼を言いたい。
とかく期待が大きいと、過去の経験では、なあんだこの程度だったかと、がっかりすることが多かったのだが、今回は違った。
これまで一度も姿も声も聴けなかったステラという登場人物が最初と最後に出てくる。
パトリツィア・チョーフイ、性格の異なる女性四役を見事に演じ分け、とりわけ、要となる第三幕、アントニアの場面は美しい旋律のアリアを、この上なく格調高く、伸びのある声で歌い上げ、胸いっぱいの高揚感を味わえた。
ホフマンも素晴らしかった。悲痛な叫びを表現する聞かせどころの声が十分すぎるくらい響き渡り、いいテノールだな、と感動した。
そして悪魔四役、憎々しさをみなぎらせる、ドスの効いたバリトンが怖いほど効果的に冴えわたり、迫力だった。
舞台美術に、このオペラの持つ怪奇性が出ていないという感想をもれ聞いたので、懸念していたが、フランスの名画の一場面のように落ち着きがみなぎった色調、人形オランピアが空中に浮遊するようなしかけもあり、驚かされた。全体のトーンは地味、それはそれでよかったのだが、欲をいえば、ヴェネチアの場面はやはり、もっと水の都の風景が見たかったという思いがした。
オーケストラは申し分なく、細部まで美しく鳴り響き、舞台を引き立てていたと思う。
未完だったこのオペラ、エピローグをどうあつかうかに興味がつきないが、今回は日本で初めて見られるというケック版、ステラが登場して舞台は引き締まったと思ったし、ホフマンに呼びかけるミューズの締めくくりの歌詞、「人は愛で大きくなり、涙で一層成長する」がこころに残った。カーテンコールで大野さんは最初にオッヘンバックの扮装であらわれるという茶目っ気を見せ、二度目で素顔になり、半数以上がスタンディングオベーションで応えた。
文化村八階の『タントタント』でK子さんと、T子さんと会食。観劇後すぐの感動を美食とともにわかちあう至福のひととき。T子さんにメニュー選びをおまかせして、運ばれてきたものはブルスケッダ、バーニャカウダ、ピッツア、ズワイガニのパスタ、ミラノ風カツレツ、ほどよい量、選択のよさに驚き、この店の味のよさを楽しみつつ、九時過ぎまで語らいはつきなかった。
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