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2013年2月 9日 (土)

『母の遺産 新聞小説』を読む

久々に、読み始めたらやめられない本に出遭った。
水村美苗著『母の遺産 新聞小説』
自分では買おうとしなかった本である。ぜひ読んでください、と貸してくださったMさんに感謝しなければならない。

読みたいと積極的に思わなかったわけは、実母と義母、共に85歳を過ぎてから数年以上、骨折が原因で徐々に衰弱し、認知症もすすんでいったあのころの介護の体験を思い出したくなかったからである。それでも、二人の母が、人間はどのように死ぬかということを克明に見せてくれたのが、わたしには「母たちの遺産」であったと受けとめている。

この本はちょっと違った。実母から相続する遺産の金額が詳細に記されている。
もちろん著者が伝えたかったことはほかにもあることは副題の「新聞小説」からも明らかではあるが、二人姉妹がそれぞれ3500万円以上もの遺産を相続しながら、母への憎悪は消えず、幸せとは遠い状況というもので終始したことに、作者の類稀な筆力は認めるものの、少なからず違和感が残った。
姉妹の母の死までの前半257ページまでは、とてもフィクションとは言いがたいほどの著者の感情移入があらわれていて、圧倒的な描写力、表現力、構成力で目を釘づけにされてしまう。

忘れがたい文章もそこここにある。
・・・どう努力をしようと母が少しも幸せにならないという不毛な気持が、疲れをいや増しに増した。
・・・かつて多くの日本人がもっていた西洋に対するどうしようもない憧れ…藝術なり学問なりを通して、人間が少しでも高みを目指すときの、指標となっていった。
・・・五十代になると、仕事をもった女のほうが体力と忙しさの戦いのなかで老けていた。仕事をもち老親も抱えている女は悲惨であった。
あのころのわたしだ、という思いが重なった部分である。

とりわけ、主人公のパリ生活の描写は現地で生活したことのあるひとだけが書ける適確で鋭い観察に満ちていて、この作品の魅力をさらに広いものにしている。

それなのに、後半の祖母の逸話が『金色夜叉』にかかわるところから、つまらなくなってきた。身内から聞いた話を信憑性のあるものにしたいと思う気持があふれすぎていて、現実とあまりにもかけはなれている荒唐無稽な昔の名作が浮いているのである。
箱根のホテルでの出遭った人とのかかわりも底が浅く、迫力に欠ける。

イェール大学、大学院で仏文学を専攻、プリンストン大学で日本文学を教えていたという、この上ない知性派、しかも天賦の文章力に恵まれている作者ではあるが、実体験をもとにしたためか、庶民とかけはなれた生活の細部の描写が、作者自身の人生観の片鱗をあらわしているのではないかと、憶測させてしまうのは惜しかった、と思われてならない

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