ウディ・アレン賛
ウディ・アレンの映画をたて続けに三本見た。
まず、現在上映中の『恋のロンドン狂騒曲』を日比谷まで見に行き、あまり面白かったので、TSUTAYAに出かけ、『ミッドナイト・イン・パリ』と『ブロードウエイの銃弾』をレンタルしてきて、見続けたというわけである。
天才映画監督はほぼ一年に一作を世に出しているが、ときどき狂ったように暴走するので、『マッチポイント』のような作品はちょっとついていけなかった。
でも今回の『恋のロンドン…』はご本人の登場しないおだやかな画面で、高齢者夫婦とその一人娘夫婦の危うくなった家庭生活を軸にして生ずる日常のドラマをこれ以上ない快テンポでひとりひとりの心の動きにしっかりと食い込んで、描写してくれる、ウデイ・アレン節健在、何度も声をたてて笑ってしまった。
人食い博士レクターが当たり役のアンソニー・ホプキンスもわたしと同年代、さすがに目力も弱くなった、その彼があらたな恋に挑もうとするこっけいな努力も笑わせてくれる。
しかもラストは予想もしなかった事件が起き、未解決のまま、観客の想像にゆだねられて終り、あれあれ、と煙にまかれる。
『ミッドナイト・イン・パリ』は昔の偉人たちとの再会という幻想的な話かと敬遠していたのだが、いかにも監督好みと思われるパリのよりすぐりの風景を十分ぐらい流す導入部といい、おだやかだけれど皮肉たっぷりのスノッブの扱い、ウデイ・アレンの若いときそっくりのせりふまわしをする主役を心憎いほどの表現力で追うカメラ、そして幻想場面をくっきり浮きたたせるギターの調べ、製作の順番で行けば、『ミッドナイト…』のほうがあとだというのも道理、最近作に近いこれはやはり完成度において、『恋のロンドン…』より一歩抜きん出ていると思った。
『ブロードウエイの銃弾』は彼の映画人生中期の作品、まさに独特の映画藝術を極めた最高傑作のひとつではないかと思われる。売れない脚本家にようやくチャンスがきて作品が上演されることになるが、そのスポンサーがギャングの親分、条件として情婦であるコーラスガールを主役の一人にしろという難題と戦いながらの舞台。ドラマ性、ユーモア、サスペンス、すべてに彼の才能の最高とも言えるひらめきがこめられていて、目がはなせない。
この三作品、いずれも小説家、脚本家という、もの書きが主人公、一つの作品を生み出す苦労にまつわるエピソードが現実味を帯びていて、アレン監督自身の経験がこめられているのではと推量した。
いずれの作品も主役キラーの脇役の顔ぶれがすごい。『恋のロンドン…』の母親、ジェマ・ジョーンズ、『ミッドナイト…』のガートルード・スタイン役、キャシー・ベイツ、『ブロードウエイ…』の大女優ヘレン・シンクレア役、ダイアン・ウイースト、日本の杉村春子みたいなひとたち、このひとたちが出てくるだけで、映画の面白さが倍加する、それを監督は心得ていて、登場のさせ方に工夫が凝らされ、観客の期待を裏切らない。
74年生きてきて、話題の映画はほとんど見逃さずにきているが、これほどまでに楽しませてくれるウディさん、しかも同年代なのに、まだ現役で、来年にはローマが舞台の期待作まで送ってくれるという。うれしくて有難い、ニュースである。
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