『渇き』と『旅情』
昼過ぎ、ムーヴィープラスをつけたら、『渇き』という2009年カンヌ映画祭グランプリ受賞作品が始まっていた。題名からしてなにか深刻なストーリーかと思ったら、なんと韓国の吸血鬼映画なのである。場面転換が早くて、おっそろしくも、おぞましい、グロテスクな場面が続出する。主人公は神父なのに、血を吸わないと生きていけないヴィールスにおかされた呪われた男、死んだ恋人に自分の血を与えて生き返らせ、女吸血鬼にする。その女は裁縫用の握りばさみで出会う人間の首の下をジョキジョキ切って、チュウチュウ、ゴクゴク血を吸うのである。
五十年まえ、クリストファー・リーというイギリスのバンパイアー映画に驚愕、目が離せなかった。十字架と日光に弱くて体が溶けていく場面がすごかった。
ロマン・ボランスキーのバンパイアー映画も美しく、これも怪しい魅力に見とれた。
でもこのアジア、バンパイアーはすさまじく、現実味がありすぎて、いやらしく、怖いのだが、やっぱり目が離せなくて、とうとう最後の場面、日の出と共にふたりの足が黒こげになってぶらさがるところまで見てしまった。
韓国映画はここまでやるか、という感じだったが、なんと原作は日本のマンガなんだそうである。
やれやれとまたチャンネルをひねったら、BSプレミアムで『旅情』をやっていた。何度見たかわからないのに、場面ごとのディテールは忘れてしまっているので、ロッサノ・ブラッツイーが出てくるところまで見ようと思ったら、見落としていた細かい小道具や、せりふの端々が楽しくて、これも最後まで見てしまった。
キャサリン・ヘップバーンの衣装がステキだ。色もいいし、形も古さを感じない。なんとエレガントなのだろう。あの当時はスタイリストはいたのだろうか。ヘップバーンの衣装はどの映画でもステキだから、きっと彼女の趣味ではないだろうか。
ブラッツイーは実に魅力的。出会いのとき、広場のカフェで新聞を読んでいるふりをしながら、彼女の足などを見る、男の視線がセクシーでぐっとくる。彼、ボローニャ出身だそうだが、ヴィットリオ・ガスマンもそうである。
ボローニャというところには別の魅力のイタリア男が確かに存在する。
最初のデートのあと夜のテラス、そこに彼女がはいていたミュールの片方が残っていて、カーテンがゆれる。あのあとはメイクラブにきまっているが、そこを写さないところがいい。
ブラーノ島へのショートトリップ、野原でラブシーンしながら、夜も昼もなく愛し合ったことをほのめかすけれど、その赤裸々な描写はない。
いまの映画は全部見せる。あられもない姿など、見たくないのに、美しくもないのに、見せることに決まっているみたいに、見せちゃう。あれがいやだ。
秘すれば花などはいまや昔の話なのである。
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