江口玲ピアノリサイタル
チケットがもう完売と言われたときの失望は大きく、もう少し前に手配すべきだったという悔いと共に、なにがなんでも行きたいという気持がつのり、万が一キャンセルが出たら、ぜひ知らせてほしいとケイタイの番号を伝えたのだった。
大嵐の予報に気が変わったひとがあらわれたのか、前日、ケイタイが鳴って、超人気、江口玲ピアノリサイタルのチケット、正にまぎわにゲット。
彼の人気は不動のものだが、もう一つの呼び物が、今回のピアノ、ホロヴィッツが気に入って弾いていたという、100年まえのスタンウエイの名器CD75。
なるほど、塗装も薄く仕上がっていて、木の地肌がすけて見える。
プログラムはオール、リスト。第一曲の『アルカデルトのアヴェ・マリア』ですでにその音色に、ぞくっとした。とりわけ高音の硬質なひびきは耳ざわりよく、リスト特有の低音の奔放な和音の攻めに対応して、その美しさが際立つ。
弾き手が音を作っているというよりは、ピアノの方にそれを上回る主張があるかのよう。すごい! 鳴りすすむにしたがって音色はつややかさを増す。
ピアノにも名器があるのだと、あらためて実感。
超絶技巧の数曲を難なく弾きこなし、巡礼の年、第二年イタリア全曲が終了すると、思わずブラヴォーと叫んでいたが、聴衆全員が同じ思いだったらしく、うお~っつという歓声が呼応した。
後半の『リゴレット・パラフレーズ』は期待通りだったが、ホロヴィッツ編のハンガリアン狂詩曲がちょっと不満。ホロヴィッツがいじりすぎていて、超絶技巧がうるさい感じ、原曲のままのほうがずっとよかった。
帰りはほんとの大嵐、でも満足感が上回っていたので、ビショ濡れが苦にならなかった。
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cannellaさんは、相当に音楽を深く勉強されていたんですね。
まるで評論家のようで、文学にも絵にも音楽にも並々ならぬ情熱を感じます。
名器CD75 。???
円盤型のCDしか知らない私ですが、文章の情熱につられて調べてみると、少し賢くなりました。
なるほど、『コンサートグランドのスタインウェイD型。その中でも特に素晴らしいものはCDのシリアルを持つ』のだそうですね。
嵐をついてまで聴きたいという江口玲氏のピアノ。まだまだお若いようですしこれからも楽しみですね。
テレビの番組で気をつけておきます。
投稿: ちゃぐまま | 2012年6月21日 (木) 22時17分
ちゃぐままさん
よく調べられましたね。スタンウェイに番号があるのを、わたしも初めて知りました。
今回江口さんがオール・リストになさったのは聴き手にとても親切な配慮だったと思います。音色の変容がよくわかって楽しかったです。
投稿: cannella | 2012年6月22日 (金) 21時00分