なおも読みたい
録画しておいたETV特集『言葉で奏でる音楽・吉田秀和の軌跡』は真夜中の番組にしては惜しいほどすぐれた出来栄えで、吉田さんの人となり、表現力、日々のお暮らしの隅々までを、あますところなく語り、息をつめて見入ってしまった。
カラヤンの演奏を、アウトバーンを疾走する車の中から木立や野草や潅木までも見落とさずに写す、すぐれたカメラの目のようだ、と表現された吉田さん、ああ、正しく言い得て妙なる描写、これはもう、ご著書を読まなければ、と翌日図書館に向った。
大田区内最大の図書館なのに、係りの女性は、吉田秀和さん?と知らない様子。パソコンで検索するも、認識がないとあって、出てくるデータもお粗末。書庫に全集があるはずだと思ったが、押し問答していても仕方がないので、書棚にあったわずか数冊のうち、一番最近の著書、『永遠の故郷・夕映え』(集英社)を借りてきた。
エピソードが豊富、98歳でいらっしゃって、一つの道を極められた吉田さんには、過去のお付き合いの方たちとのかかわりを危惧することなど超越されているのだろう。高名な音楽評論家の再婚相手である外国人の夫人が精神を病んで亡くなるというラストまでを綴った、一話は小説のよう。関連する楽曲や詩や名作小説までもが引用されているので、ずしりと胸を打つ。
形容詞を連ねる抽象論ではなく、楽譜の一節を引用されながら、対話しているようなわかりやすい解説、感情移入が滑らかな語り口が心地よく、CDを聴きながら、読んだらさぞ、読みごたえがあることだろうと思った。
お一人住まいの鎌倉の質素なお宅、そこで亡くなられる最後の日まで書き続けていらっしゃった、中身の濃い、重い人生、現在74歳の若輩としては、果たして八十、九十を無事に越えられるかはわからないが、こういう方の人生こそ、その詳細をもっと知りたい、学びたいと願う。
そのまた翌日三省堂書店で、ご著書を探したら、『オペラ』という本が一冊だけ。わたしの落胆を目にして、店員が言った。
いまにまとめて増刷されて、ずらりと本が並ぶかも知れませんよ。
« どうなっちゃったの、NHK!! | トップページ | ロイヤルビジネス 1. »
「音楽」カテゴリの記事
- 何よりのおすすめ『連隊の娘』(2022.09.24)
- 「ドン・カルロス」を観る(2022.09.06)
- 『魔笛』観劇(2022.04.24)
- 久しぶりの外出(2022.03.02)
- 独特スタイル、横山幸雄ピアノリサイタル(2022.01.05)
お久しぶりです、ばあばさま、お元気ですか?2ケ月振りにコメントさせて頂きます。
先日東京体育館に女子バレーのロシア戦を観に主人と次女と私の三人で出掛けました。ついでに浅草もです。神奈川の青葉台に車を駐車して田園都市を利用して半蔵門線へ、ふと もしかして地下鉄内でばあばさまと案外お顔を会わせてるかなぁと楽しい想いを想像してしまいました。お顔を知らなくて残念です。
ばあばさまのブログはいつも素敵ですね、私も素敵に歳を重ねたいです、ばあばさまの様に。今回のブログも知的、吉田様の本を私も早速探したいと思います。
今日から一泊二日で双子達は宿泊学習で富士の朝霧にお泊りです。長女はもう少ししたら部活から帰ってきます。静か過ぎてつまらないです、本音。明日が待ち遠しいです。
ばあばさまのブログ、また楽しみにしてますね
投稿: まちゃこ | 2012年6月 5日 (火) 18時34分
まちゃこさま
コメントありがとうございます。親子でスポーツ観戦、なんと健全な!!
きょうのお一人のお時間お大切に。わたしの年齢になっても、ひとり時間はとても貴重です。
したいことがありすぎて、結局、考えているうちに、何もせずに過ぎてしまったりもしますけど。
投稿: cannella | 2012年6月 6日 (水) 08時50分
吉田さんの文章、たくさんは読んでいませんが、絶対音感に対して、
絶対語感というものがあるならば、まさにこの方こそお持ちだろうと思います。
自分で見聞きした景色や音でなくとも、彼の筆によって、実物に触れたかのように
鮮やかによみがえる・・・
クラシック音楽だけでなくお相撲もお好きだったようですね。
きっと星も芸術も猫も冷蔵庫も等しくまなざせる方だったのでしょう。
神様のみもとでも音楽やお相撲を楽しまれますように。
投稿: おばさん | 2012年6月 6日 (水) 22時23分
おばさんさま
お久しぶりのコメントありがとうございます。
絶対語感、言葉で奏でる、に匹敵するお見事な描写、恐れ入りました。
投稿: cannella | 2012年6月 7日 (木) 12時19分