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2012年3月14日 (水)

マイク・リーの世界

オリンピック開催を控えて活気づくロンドン探訪のルポで、一泊14万円もする高級ホテルやローストビーフの食事や、贅沢ブランドの紹介などがされていたが、わたしは今、それとは全く対照的な庶民の暮らしを描くマイク・リー監督の名人芸に魅せられている。

予備知識なく、下高井戸シネマで初めて見た最新作『家族の庭』、イギリス映画だから、『ハワーズ・エンド』の現代版みたいなものかな、と想像していたのだが、頭をガーンと打ちのめされた感じだった。地質学者と医学カウンセラーの六十代夫婦の生活は穏やかではあるが、画面はどちらかというと、彼らの古びた家そのままのくすんだ色調。彼らが野菜栽培をしている市民菜園もなんだか暗くてわびしい。独身の訪問者の常連と何気なくかわしている会話が、ある出来事から、本音がむきだしになって緊迫感に満ち満ち、身をのりだし、目が離せなくなる。
人とのかかわりの中で、胸の奥にたまっていたものが吐き出されてしまうのはどういうときなのか、そしてそのあと彼らの関係はどうなるのかが、出演者の迫真の演技と表情のアップと、丁寧な会話のやりとりで明らかになって、それはそのまま、わが身の日常にダブってくる。
いや、スゴイ。カンヌを湧かせ、各国の映画賞候補になるわけだ。これまでの作品をもっと見たいと、TSUTAYAに出かける。

ヴェネチアで金獅子賞を獲得した『ヴェラ・ドレイク』、『家族の庭』の冒頭で、不幸のかたまりのような鬱病の女性患者で出ていたイメルダ・スタウントンが主役、1950年代の家政婦をしながら家庭を支えている主婦、ある秘密をかかえてはいるがいつも周囲を明るくする優しい女性、ありふれた顔立ちなのに、所作、表情、ときにはっとするほど、美しく感じられる。マイク・リーの映画はファミリーと言われている常連の出演者がいて、そのひとたちが役によって別人かと思われるような演技をするのを見る楽しみも見逃せない。

続いて30代の人々を描いた『ハッピー・ゴー・ラッキー』、なんでも冗談と笑いで過ごしてしまうようなハイ・テンションの女性の日常なのだが、この女性に自動車運転の個人教習をする男性とのからみのピーク。『ヴェラ・ドレイク』で寡黙な独身男性を演じたエディ・マーサン、ネコが歯をむき出して怒るみたいな表情で本音をぶつける。

マイク・リーは何を語ろうとしているのか。ネットのレビューの中から彼自身が語った言葉を見つけた。
「人生は孤独感と、一人ではないという感覚の複雑にからみあったもの」
なるほど。どの作品の中でちりばめられている、あの「カップ・オブ・ティー」という言葉。主人公たちはうれしいときも悲しいときもティーを飲み、相手にもすすめる。そしてときには「ビスクィッツ」(クッキーでもなく、ビスケットでもない独特のbiscuitがイギリスにはある)を添えて。それがティーバッグのお茶かも知れないのに、なぜかこれらの映画の中では特別な味の飲み物のように感じられてしまうのだ。

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コメント

前から思っていましたが、洋画のことが詳しいですね~!
映画のタイトルも、俳優の名前も、賞のことも。
ハイビジョンになりほとんど映画館に行くことがなくなりましたが、
映画館のあの雰囲気は大好きです。
マイク・リー、心しておきます。

チャグママさん
娯楽と言えば映画しかなかった時代に育ちましたからね。特別な愛着があります。
家でビデオを簡単に見られる世の中ですが、劇場の大きな画面に集中する楽しみは格別の味わいなんですよね。

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