ファビオ・ルイジを知る
しばらく海外演奏家のコンサートに出かけないでいたら、T子さんたちの会話についていけないほどの知識の差が生じていた。
PMF,パシフィック・ミュージック・フェスティヴァルがバーンスタインによって創設されたことは知っていたが、質、規模共にこれほど発展していようとは知らなかった。
ましてや今回の藝術監督、イタリア人のマエストロ、ファビオ・ルイジの名も知らずにいたので、先入観や予備知識もないまま、いきなり音楽を耳に入れる体験をした。
ガラス張りのキタラホール、右に大ホール、左に小ホール、アリーナ型の大ホールはすこぶるつきの音響、その前から六番目のど真ん中の席でブラームス交響楽二番を聴くことができた。
指揮者はどちらかというと学者のような風貌のメガネをかけた細身で華奢なひと。
白く長い指の左手が情感をたたえて振られる。
<音楽を手のひらにのせて運ぶようだ>と喩えられたカルロス・クライバーのことを思い出した。
ルイジ氏の振りかたはクライバーより抑制がきいているが、右手よりはずっと饒舌で見ていて飽きない。
それよりも驚いたのはフォルテッシモ、全身を激しくしならせて、あらわす指揮ぶりである。
最終楽章の徐々にクレッシェンドしながら、クライマックスのフォルテッシオに導く高まりをあらわすしなりの激しさとそれに呼応する音との究極の一致は、聴衆の深い感動を即製する、これぞ音楽の喜びと感ぜずにはいられなかった。
震災の影響で、当然応募すべき優秀な団員の欠如で、今回の演奏の質を懸念する声も聞かれたが、射るような眼差しで指揮者を見つめる団員たちを見つめながら、若さ、素直さゆえにつくりだすことのできる清廉な音を感じ取れたと思った。
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