忙中模索
引越し間際に出かけなければならないことが沢山ある。
転出証明、年金手続き、郵便の転送手続き、運転免許の申請など、など、夫は圧縮ストッキングをはいて、マメにこなしてくれた。
レーザー手術は7月初めに予約してあるが、目下のところ、静脈瘤の痛みはひどくなっていないのが幸いである。
わたしも自室の引き出し七個を空にし、書棚三箇所の整理をして、ちょっとほっとしている。
それなのに、片付いていない本を眺めて出るのはため息である。
捨てられないのだ。
初めてイギリスに行ったとき、興奮して買ったShakespeare Quotationsはほとんどページをめくったことがないのに、捨てられない。
卒論に選んだセオドア・ドライザーの『ジェニー・ゲルハート』も『シスター・キャリー』もとっておきたい。
『ジェーン・エア』もヴァージニア・ウルフの本も捨てる気になれない。
四十年前シカゴで女性解放運動の波にゆられ、すすめられて買ったベティ・フリーダンの本も大事。
そして翻訳の仕事のときに活躍してくれた、固有名詞英語発音辞典や、感情表現辞典などの辞書類も、ああ、何度眺めてもやはり思い切れない。
日本語教師をしていたときに使った、『基礎日本語』1,2も、そう。
もう仕事をすることなど、絶対ないのだが、捨てられない。
今のわたしを築き上げてくれた本たちを見捨てることができない。
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