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2011年4月 7日 (木)

『トスカ』を観る

スカラ座のチケットはミラノ在住のイタリア人でも入手困難で、よくチケットが買えたわね、と会うひとごとに言われる。
ひとつにはネットで買うという行為に慣れておらず、二ヶ月もまえから予定を決めるということも苦手なひとが多いということらしいのだ。

さてそのスカラ座に行く日、奥さんは少しでも予備知識を与えたいという配慮からか、親切にも元スカラ座の合唱団員だったという日本人女性を三時のお茶に招いてくれた。
日本語で一杯話してね、と言ったのに、自分が先に口をきり、例のごとく、とまらなくなって、結局合間を縫ってその人と久しぶりの日本語で早口会話をしたのだが、なんでも故郷の山口から戻ったばかりだというそのひと、のっけから、日本が大変なことになっていると言うのである。
大阪に着いた新幹線は女性や親子づれで満員、みんな東京を離れて疎開しようとしている、もし心配だったら、なるべく早く帰ったほうがいい、どこか地方の親戚にでも疎開するところ、ないんですか?よかったら、わたしがいつも航空チケット手配するとこ教えますよ…
これはもうただならぬことなのかと、スカラ座の情報どころではなくなってきた。
だが、待てよ、ここで早飲み込みしてはならぬ、夫からなにも言ってこないではないか、ともかく今夜のスカラ座を無事に見終わってから電話することだ、表向きは笑顔で礼をいい、内心は黒雲がたちこめているのを秘め、タクシーを呼んで出かけた。
開場少し前に着き、ドアが閉まっていたので、何時に開くのかしら、と待っているひとたちにイタリア語で訊いたら、怪訝そうな顔をされる、大半が外国人で英語を話し、いかにチケットが手に入りにくかったかを語り合っていた。
黒いユニホームにペンダントを下げた男女の案内人は笑顔もなく、よそよそしい。二階パルコ席11最前列は見やすい席だったが、隣に歳の離れたカップルがいて、後ろの白髪の男性が観劇中に彼女の背中に顔をうずめたり、ちょっと不快だった。
イタリアなのだ、ここは。

『トスカ』は40年まえシカゴで見たときは暗い、陰鬱な印象しかなかったのだが、今回はオペラの生き字引的友人Kさんから、台本をもらっていたので、それをめくりながら、じっくり関心を持ってみることができた。
舞台はどちらかと言えばシンプルだったが、悲劇性を高める効果をかもしだす格調や色彩を選んでいる。
主役のだれかがとりわけ目立つという印象はなかったが、ソプラノも品格があるまろやかな声、太り気味のテノールは容姿をカバーするのに十分なのびのある耳ざわりのいいアリアを聴かせた。急遽代役となった敵役のバリトンも憎憎しげでなかなかよかった。何にも増して素晴らしかったのはオケである。Kさんが若手の有望な指揮者だとおしえてくれたが、正しく、これまでイタリアのほかの歌劇場で聴いたオケとは比べ物にならぬほどの、美しい音色と、響き。メロディはいつまでも耳の中でこだましていた。
きょうの気分は『トスカ』がふさわしい。
もし別興行の『魔笛』を見ていたとしたら、パパゲーノの陽気なアリアはわたしの孤立感をいっそう深めていたに違いない。
心配していた帰りのタクシーはドゥオーモ広場から難なく拾えて、しかも往きより安かった。

深夜ようやく夫と電話がつながる。東京は安定してきている。原発はもちろん不安はあるが、日本は大丈夫だ、日本を信じろ、流言飛語に迷わされるな、ゆっくり楽しんでおいで、の言葉がじんと心にしみた。

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コメント

無事にスカラ座デビューなさったようで、安堵いたしました。世界でいちばんチケットを買いにくい劇場ですね。イタリアに限らず、海外では日本の状況について、誇張・歪曲された情報が流れているそうで、ローマ在住の日本女性が嘆いていらっしゃいました。

聞けば聞くほど、チケットは入手困難なようですね。そのスカラ座に独力で、二十回もいらっしゃた
あなたの偉業を、わたしは誇らしく思います。

スカラ座でオペラの鑑賞、良かったですね。

ご主人様の温かい思いやり、素敵です。
男ってやっぱりすごいですね。

ありがとうございます。
でも夫はクラシックにもオペラにもまったく関心がなく、ジャズが好きなんです。

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