いま食べたいもの
病院から介護施設に戻った義姉を、夫と二人で見舞った。
車で二十分の距離、大森の住宅地の中ほどのホーム。
彼女は食事中で、おかゆを食べていたが、おかずは普通食、ほとんと残さず食べていた。食欲があるのはうれしい。
でもまた下血したの、と言ったので、やはり病状が進んでいることがわかった。
苦痛はまったくないという。
ふとパジャマのズボンと部屋履きのすきまから見えている足先を見て、愕然とした。
いまにもはじけそうにむくんでいて、血管が浮き出た紫色である。
ああ、やはり余命一年というのは本当なのだ。
何か欲しいものありますか?と訊くと、待っていたようにメモを差し出した。
病院のときは駅から近かったので、友人、親類、大勢の加勢があったらしいのだが、こちらに移ってから、訪問客は激減らしい。
二十項目の半分以上が、おやつの類である。
カリントウ、金平糖、チョコレート、まんじゅう、カステラ、クッキー、塩煎餅、海鮮せんべいなど。
夫と二人徒歩で、池上通りに下った。
おいしいもの好きの義姉が気に入る味は有名店のものだが、ケーキ屋も和菓子屋もなく、あるのはサミットというスーパーだけ。
こんなことがわかっていたら、あらかじめ用意できたのに。
ケイタイを使いなれていない彼女は滅多に電話しないし、こちらから電話しても通じないことが多い。
クッキーやチョコレートや煎餅のどんな種類がほしいのかその説明もちょっと語彙不足になっている。
金平糖だけは見つからなかったが、あとはなんとかスーパー内でそれらしきものをそろえ、ホームに戻った。
すぐに薄焼き塩煎餅を一枚、カリントウを一個、カステラ一切れ、チョコレートを一個、食べて、ああ、満足、と言ったので、ともかく、安心した。
まだ食欲があるうちに、この世のおいしいものをできるだけ食べてほしい、と思ったが、勝手にそろえてもこちらの自己満足に過ぎないかもと思ったりもするのである。
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