ああ、バレンボイム
このところNHKのイタリア特集番組が続いている。
予約してあったスカラ座特集プレミアム・シアターをやっと見ることができた。
八時台はチャンバラ好きの夫にテレビを独占されてしまうので、じっと我慢なのである。
スカラ座の舞台裏よりも、シーズン初めにイタリアオペラではなく、ワーグナーの『ワルキューレ』を引っさげて登場したダニエル・バレンボイムに目が吸い寄せられた。
すごい!その指導ぶり、ピアニストと指揮者との両道を極めて頂点にいるひとのカリスマ性が、ドレスリハーサルからもろに伝わってくる。
主役のテノールやバリトンを、いつも出だしが遅れるじゃないか、と叱るときは英語やドイツ語、そしてオーケストラにその音は強すぎる、すすり泣くように、と怒鳴るときはイタリア語、ド迫力なのだ。
指揮者がどれほどの名指揮者なのかは、その練習風景を見ればわかる。
ワンフレーズ、フレーズが指揮者の指摘で完成度を増していくのがはっきりと聴きとれるからだ。
インタビューでイタリア人リポーターがスカラ座ではこれまでイタリアオペラばかりだったというと、色をなして流暢なイタリア語で言い返す。トスカニーニがワーグナーを上演しているじゃないか、と。
アルゼンチン生まれのユダヤ系、マエストロ。
なんと英語、スペイン語、ヘブライ語、ドイツ語、そしてこのイタリア語など、数ヶ国語を話すという。
以前、やはりNHKの音楽番組で、バレンボイムが若手のピアニストにベートーベンのソナタを指導するところを見た。そのときは英語だったが、格調高い、これ以上ない適確な表現で、解釈の仕方を伝えると、弾き手の演奏が見る見る変わっていくのに感動した。
いまから数十年まえ、バレンボイムが日本に初来日したときのコンサートに行ったことがある。あまりにも空席が多くて、申し訳ないような入りであった。
それがどうだろう、いまやベートーベンソナタ全曲演奏、すしづめの満場総立ちの拍手である。
家でリラックスしたいときは彼のメンデルスゾーンの無言歌のCDを聴く。まさにピアノが歌っている名演奏だ。
スカラ座初日はバレンボイムのイタリア語の挨拶があった。
練習風景のときは紅潮していた顔がすっかり冷静で、おだやかで、端正な顔になり、指揮棒の振りかただけはどきりとするほど激しく、あの、うんざりするほど繰り返しの多いワーグナーをこんなにも美しい曲だったかと思うほどの演奏に仕上げた。
初日の成功は歌手よりもこのオーケストラあってこそだと思う。
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