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2010年12月14日 (火)

『クレアモントホテル』を観る

岩波ホールは上映30分まえ、すでに満席だった。
圧倒的に中年以上の女性客で埋めつくされている。ようやく見つけた空席は前列二番目。チラシを一杯手にしている、見知らぬお隣りさんに「見づらくないでしょうか?」と訊いたみたら、ここの常連だそうで、大丈夫、と言ってもらえた。

ローレンス・オリヴィエの三番目の夫人ジョーン・プロウライト。ヴィヴィアン・リーがニューヨークまでオリヴィエに会いにいったとき、この女性と結婚するといって紹介され、ショックを受けたときの、まさにその相手。
美人ではないが、独特の個性あふれる演技派。
これまでも『ムッソリーニとお茶を』とか『殺したいほどアイラブユー』とかで主役の影をうすくする存在感を見せていて、注目していたのだが、この映画、75歳にして堂々の主役である。

老いをまったく隠そうとしない日常の素の姿が、ディナーのときはドレスアップして、見違えるような気品あふれるレディに変身する。さすがデイムの称号を持つ彼女である。
高齢者の長期滞在ホテルで、このいでたちであらわれた彼女に、杖をついた老婦人が耳打ちする。ここはunderdressedでいいのよ、と。このせりふを言うミセス・アーバスノットはかつてヒッチコックの『フレンジー』で主役をしたひとだ。
あれから、数十年、観客のわたしも年老いたが、画面も女優の老いを容赦なくうつしだす。

大学の英文科でjoy of recognitionという言葉を習った。認識の喜び、ああ、これわかる、知ってるといううれしさである。
彼らの話す、米語ではなく、英語の表現の美しさ、格調高さ、ユーモア、ジョーン・プロウライトのせりふの端々、そしてそれを発する表情に魅せられながら、高齢の女性の魅力は容貌ではなく、内からにじみ出る、教養、人格なのだとつくづく思った。

ラスト近く、若い女性に言う言葉、「日々の一瞬、一瞬を大切にすること、これが人生で学んだ一番大事なこと」というせりふに大きくうなづきたくなった。

場内の笑いやため息などから、共感しているのが、自分だけでないことを
背後に意識する心地よさあふれる名画であった。

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