永遠のヒロイン、ヴィヴィアン・リー
予約しておいたNHKハイビジョンのドキュメンタリーをようやく見ることができた。
ヴィヴィアン・リーはあこがれの人であった。
こころなしかアンバランスな眉が、ときに気の強さをあらわし、ときに哀愁をおび、ひとたび微笑むと、可憐で華やかで気品があふれる、忘れがたい、思いがけない贈り物をもらったような気分にしてくれる、そんな美貌である。
この人の映画を次々と欠かさず見て、どんな消息も見落とすまいとしていた。
それがどうだろう。このドキュメンタリーは知りたかった全てを語ってくれたのだ。
ヴィヴィアンのひ孫、大学生のソフイーが曾祖母の足跡をたどっていく。
鼻ピアスの、ちょっと勝ち気そうなきれいなお嬢さん、最初の結婚で生まれた一人娘の子孫、おきざりにされたその祖母は登場しないが、リバティ模様のブラウスを華やかに着こなした親戚の初老の婦人が証言する。ヴィヴィアンには母性が欠けていた、と。
オリヴィエと結婚して住んだというノトレー荘は息をのむほど美しい並木道の奥にある、広大な屋敷である。
二人だけの特別の散歩道に、オリヴィエの子息が登場する。自分の母親から父親を奪った女性のことを語るのに、憎しみは感じられない。不倫の犠牲者である実母でさえ、ヴィヴィアンの魅力の虜だったと認めている。
ヴィヴィアンはオリヴィエの子を流産したあと、神経を病み、離婚した。亡くなる七年前に出会った若い俳優、ジャック・メリベールと三度目の結婚、そして田舎に住みたいという希望を実現させ、ティーカレージ荘に住む。
池がそばにある、瀟洒な田園の家。
ジャックと結婚するはずだったのに、ヴィヴィアンに盗られたという女性も登場するが、ヴィヴィアンの魅力をたんたんと語る。
ヴィヴィアンが最後まで、オリヴィエを愛していたことは全員が認めている。それでも三度の結婚で、懸命に愛を全うし、生きてきた、ヴィヴィアンにとってlove was lifeであったと、一番親しい俳優の友人が証言する。
オリヴィエが八十歳のとき、『ローマ哀愁』を観ていて、涙をながしながら、どうしてうまくいかなかったんだろう、と言ったという子息の語るエピソードが胸をうつ。
それぞれの証言者がすべてヴィヴィアンの魅力を認めていて、語りの中から彼女の等身大の実像があふれ出てくる。
二時間という長時間、目を釘付けにしてくれる、近頃稀に見る素晴らしい番組であった。
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オリヴィエが八十歳のとき、『ローマの愛愁』を観ていて、涙をながしながら、どうしてうまくいかなかったんだろう、と言ったという子息の語るエピソードが胸をうつ。
2010年12月13日 (月)の文ですが、
「愛愁」ではなく、「哀愁」です!! なんで事前に読み直しとか、しないんだろう?
投稿: gen | 2021年12月 8日 (水) 11時27分