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2010年11月19日 (金)

天に召されて

色とりどりの花に囲まれた遺影はとても72歳には見えなかった。

黒い豊かな髪、高齢のたるみのまったくないくっきりとした瞳。、襟ぐりのあいた華やかな色の夏のブラウスは、初めて知り合ったころの、四十代の彼女が好んでいた趣味のもの、告別式の憂いが消えそうになるほどに惹きつけられた。

天は二ぶつを与えずというが、二ぶつも三ぶつも与えられている、稀なひとだった。

美しく、賢く、いつも冷静で、取り乱したり、うろたえたりしたのを見たことがない。三十年前に国際婦人クラブで知り合ってから、学ぶことの多い交友だった。

彼女の英語は語彙も豊富で、外国人メンバーのまくしたてるような英語に、まったくひるむことのない堂々とした語りで、頼もしかった。英検の一級も、日本語教師検定も難なくパス。余暇でしていた、陶器の絵付けや、水彩画も立派なものだった。そして何よりも忘れがたいのは、家に招かれたときの美味な料理ともてなしである。

この八月に電話で話した時、余命二ヶ月と宣告されたと、淡々と語った。

告別式で焼香が済んだあと、列席した友人たちの話題となったのは、あの遺影が九月に撮られたということだった。

この世との別れが近いことを知りながら、撮った写真。それがこれほどまでに美しいとは、彼女の美学のエピローグと言えよう。

自己実現のまえに、結婚が課題であった、わたしたちの時代の終わりがだんだんと近づいてきている。

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