「ポタージュ」健在
良く通っていたその店は、自分が健康そのものだったときで、夫もまだ介護を必要としていないときだった。ブリッジの一日の試合を終えて、帰り、五時過ぎによってみると、まだ夜のお客が来ておらず、その時間をおしゃべりしながら、待つ、という時間を楽しみにしていた。メニューはポタージュスープと手焼きのパン、それに手作りの野菜料理一皿と、手作りのジュース、クッキーなどがついて、ちょうど軽い夕食と言うメニューがぴったりの、しつらえで、ほとんど毎週のように通っていたのだ。
そこから直行のバスがなくなって、夫の介護や私の病気やらで、一年、コロナ禍が始まって三年、およそ四年、行くことがなかった奥沢の店、行かないで過ごす数年が過ぎた。いつも頭の中にそこで話したこと、買ってきたパンの温め方、温度など、ことあるごとに思いだすのだが、行くことはなかった。
きょう、いつものように泳いで、さて、どこに行こうかと迷ったとき、まず、自由が丘のお蕎麦屋さん、「さらしん」の引っ越し場所を確かめること、奥沢に続く通りに見つけたのだが、きょうは月曜で休み、とわかって、そのまま、奥沢の駅まで歩いていた。
そして思ったのだ。
あの店はあるのだろうか、と。
ちょっと胸がどきどきしたが、京樽の角を曲がり、一軒一軒、確かめ、その小さな「potage」と言う字を見つけたときのうれしさ、「あった!」と思わず叫んでいた。
客はまだ来ておらず、12時まえだったが、どうぞおかけください、とちっとも変っていないご主人が言った。私は病気のことを言って、家に起こった、変化のことも残らず話し、家の事情が、自分が楽しんで通うということをやめさせてしまったということを知らせた。
久しぶりに食べるカブのスープ、パンはクルミパン、それにクッキーや食後の甘味がつき、紅茶の飲み物、主の得意のキャベツの漬物などがついて、出されたあの味。もっと早くにくればよかった。でもそれは以前にもましておいしく、美味だった。
また来てみよう、今のこの時期、前と変わらず、以前にも増していい味の、この小さな店を維持するのは大変らしい。
でもよかった、来られて。
わたしはクッキーやパンなど。千円ぐらい買って、また来ることを約束したのであった。
最近のコメント